「医療安全管理」と「医療の質管理」
医療は不確実なものであり、予測できなかったことが起こることもあります。すなわち、結果が悪かった医療行為に、必ずミスがはらんでいるというものではありません。
十分に調査して、治療の過程における問題が大きい、と判断すれば病院としては責任を認めることもありますし、やむを得なかったと判断することもあります。
後者の「医療事故」、たとえば「同じ執刀医、同じ術式の手術後に死亡が相次いだ」といった例では、背景に広く組織の問題が潜んでいることがあります。
術後の容態が悪かった場合に、なぜそういうことになったのか? 病院の管理はどうなっていたのか? その後の検証をしなかったのか? 誰も何も言わなかったのか? などを追及し、徹底的に組織全体を掘り下げていく必要があります。
最近では「医療安全管理」から「医療の質管理」という言葉が使用される場合も増えてきました。前者のエラーによる「医療事故」の対策が堅実に進歩している一方で、後者への対策である「質管理」の対応は遅れをとっているといわざるを得ないケースが起きているからです。
医療の現場以外でも、社会では様々な「事故」が日々起こっています。“事故の原因”を追究していくと、その基本的な構造は共通するところもたくさん見受けられます。
ですが、医療現場ではまず前提として自分や家族の身体の不調があり、「患者さんやご家族は不安などの感情を伴っている」「ときに命に直結することもある」、という一種の緊張状況から始まるというところに特殊性があります。
他分野における事故の共通点・相違点などを考慮しながら「医療安全管理」「医療の質管理」両者の研究を進めることが「医療ミス」を防ぐうえで重要です。
永井 弥生
オフィス風の道 代表
皮膚科医・産業医・医療コンフリクトマネージャー・医学博士