「医療事故」の2つのタイプ
最初に述べたように「医療事故」というと、「医療従事者がミスをした」という印象をもたれるかもしれません。もちろんそういう場合もありますが、それがすべてではありません。
「医療事故」の定義は、「医療に関わる場所で医療の過程において発生したすべての関係者の健康傷害を意味する」となっています。さらに、これには「医療行為や管理上に過失が認められるものと、認められないものがある」とされます。
とはいっても、実際に医療従事者でもこれをしっかり認識している人は少ないかもしれません。「間違ったわけではないが、結果がよくなかった」という時に「医療事故」という言葉を使われると、なんとなく抵抗を感じる場合もあります。
「医療事故」には2つのタイプがあります。
それぞれの「医療事故」が起こる原因は、「エラー」の問題と「クオリティ」の問題です。「医療事故」が起こってしまった場合、起こらないようにするために、それぞれに見合ったマネジメントを行う必要があります。
1、エラー(過失)による「医療事故」
「エラー」はミス、過失です。薬を間違えた、薬の量を間違えた、人を間違えた、などミスが明らかなものです。もちろんあってはならないことです。
しかし、「間違えた人が悪い」と個人の責任として終わらせては、奥に潜んでいる抜本的な問題を見落としてしまいます。事実を洗い出すために調査を行い、人、組織、管理体制を徹底的に調べあげ、背景を広く捉えたうえで、根本原因を追究することが大切です。
そもそも、医療界で「医療安全」というものに関心が持たれ、病院に「医療安全管理」に関する組織が置かれるようになったのは、1999年にエラーによる大きな「医療事故」が立て続けに起きたことがきっかけです。1999年といいますと、2022年10月現在で23年前のことですから、そんなに古いことではありません。
「ヒューマンエラー」「To error is human(人は間違える)」という言葉があるように、誰でもミスをする可能性はあります。日常でも、失敗したことがない、という人はいないでしょう。
とはいえ、命に直結する医療の現場でミスが起これば深刻な事態を招きます。ヒューマンエラーをいかに防ぐかは大きな課題です。もちろん「一人ひとりがルールを守る」ということは大事ですが、一人ひとりが「気をつける」「確認する」だけでは防げないのが現実です。
患者さんの協力、積極的な参加も必要です。病院に行って「何度も名前を言わされた」という経験をされた方が少なくないかもしれません。
医療従事者がカルテに記されたお名前と一致しているか確認のお声がけをすると、たとえ名前が違っていても、咄嗟に「はい」と答えてしまう高齢者の方もいらっしゃるからです。病院の待合室では緊張されていることもあるため、こうした事例は決して少なくありません。「(ご本人であると)わかっていても、名乗ってもらって確認する」これがルールなのです。
近年は患者さんの取り違いだけでなく、器材の取り違いによるエラーを防ぐ対策も依然と比べて進歩を遂げています。繋いではいならない器具と器具は、そもそも繋ぐことが出来ない状態にしておくなど、「ミスができないシステムを構築する」という概念が大きく進化してきました。
2、クオリティ(質)の問題による「医療事故」
もうひとつが「クオリティ(質)」の問題です。
メディアで報道されるような大きな「医療事故」には「同じ方式の術後に、死亡例が相次いだ」というものが含まれています。これは不注意から「間違えてしまった」というエラー(ミス)による「医療事故」とは毛色が異なります。
「クオリティ(質)が悪い」というとひどいことのように感じられてしまうかもしれませんが、これは手術スキル(技術)の問題だけでなく、医療を行うプロセス(過程)の問題といえます。
たとえば、術前に必要十分な検査をしていたか? 手術による治療は適切だったか? 治療方針を決定する根拠は十分だったか? 患者さんには十分な説明がなされていたか? 容態が悪くなった時の処置は適切であったのか? など、治療の過程に必要なことが十分に行われていたかどうかということが問題なのです。