上海が変えた混雑度測定法
2022年4月5日、ほとんどの商品海運部門にとって巨大市場である中国最大の都市、上海が封鎖された。2,600万人もの人々が8週間の苦難に耐える中、VesselsValueは混雑の測定方法を見直さなければならないことにすぐに気がついた。上海の外で待機している船舶を単純に数えるだけでは、落とし穴があったのだ。
上海の近くには、寧波や舟山など、他の大きな港があり、停泊地も共有している。そのため、上海以外の港で待機している船舶は、上海に寄港することはなく、混雑がひどいときには他の港に迂回する可能性が高くなる。そこで、上海港で航海を終えた船だけを対象に待ち時間を測定することを思いついた。
上海のコンテナ船の平均待ち時間は、下の図3に示すように、4月上旬の28時間(この時期の過去の平均値)から4月下旬の69時間(過去の平均値の2倍以上)へと急増している。ロックダウンが解除された6月上旬には、混雑はかなり緩和され、平均待ち時間はほぼ昨年の水準に戻った。
戦争で欧州の電力部門が“石炭”に逆戻り
西半球のコンテナ港が上海閉鎖の影響を受ける間、ドライバルク船の混雑が表面化し、マーケットを不意打ちした。下の図4に示すように、北西ヨーロッパのバルカー(ばら積み貨物船)の平均待ち時間は、2022年の最初の5ヵ月間はほとんど過去のレンジの上端を上回っていた。しかし、5月下旬から6月上旬にかけての2週間で、26時間から45時間へと急激に上昇し、7月下旬には52時間でピークに達した。
欧州へのバルカーの航海実績を調べると、あまりなかったケープサイズ(バルカーの最大船型)が欧州航路に突如配船されたことがわかる。欧州の電力会社は長い間、石炭を敬遠していた。よりクリーンな燃料への移行が進み、カーボンプライシングの市場が確立されたことで、過去10年間の大半は石炭が経済的ではなくなっていたのだ。
しかし、様々な要因が重なり、石炭部門は旧態依然とした状態に戻らざるを得なくなった。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、天然ガス価格が急騰し、また暑く乾燥した長い夏が河川の水位を著しく低下させ、水力発電に制限を加えた。さらに、欧州地域の2大経済大国であるドイツとフランスは、福島第一原発事故の後、設備の古い原子力発電所を次々と閉鎖させていた。
その結果、港湾に予想外の圧力がかかることになった。オランダのロッテルダムには、ヨーロッパ北西部の主要な石炭輸入基地がある。フランスやドイツなど他の国々は、石炭生産量の多い南アフリカやオーストラリアなど他国からの輸入を行っていなかったため、ロッテルダムからの出荷を受け取り始めた。港湾の混雑は、欧州エネルギー危機の兆候であり、先行指標として際立っている。