船舶におけるパンデミックの影響【海運エコノミストの見解】
「混雑における地域間移動」の最も明確な例は、おそらく米国で起こったものであろう。パンデミックの初期には、アメリカ西海岸のロサンゼルス港やロングビーチで職員の欠勤が相次ぎ、港湾の混雑が世間の注目を集めた(ロサンゼルスとロングビーチは西岸最大コンテナ輸入港で、LA、LBと呼ばれる)。ちょうど、国民に「ステイホーム」と呼びかけ、家計の支出がサービスからモノへと急変した時期でもあった。
このため、世界最大の経済大国における輸入拠点でのコンテナ積み下ろしに遅れが生じただけでなく、トラックや列車による内陸部への配送にも遅れが生じた。
港近くで沖待ちする当錨地が急速に埋まってしまい、コンテナ船の滞船(渋滞)が深刻化したせいで、2021年後半には最大200海里の沖合での待機を指示された。その半径では、水深が深すぎて錨を下ろせないため、船はただ漂流しているだけであった。そのため、エンジンで航行している船とそうでない船を見極めるのも一苦労だった。
その頃には貿易の流れが変わり、すでに混雑はかなり進んでいた。船会社はまずサンフランシスコ近郊へ、次にポートランド、シアトル、さらにはカナダのバンクーバーへとサービスを迂回させた。そして、下の図2に示すように、米国西海岸におけるコンテナ船の平均待ち時間は、2020年2月の1時間強から2021年2月には111時間、さらに2021年10月には146時間と着実に増加し、船会社らは米国東海岸への迂回を開始したのである。
その結果、ロサンゼルス港とロングビーチは世界屈指の主要な輸入拠点とは言えなくなり、2022年、その栄誉はニューヨークに譲られた。
しかし、米国東海岸の港湾でも、職員の欠勤と家計の需要増という問題が並行して発生した。ニューヨークやサバンナ(ジョージア州)などでの負担は大きく、米国西海岸の平均待ち時間は本稿執筆時点で12時間未満に緩和されたが、米国東海岸では2022年8月に51時間まで膨れ上がっている。
しかし、まだ平穏は続いている。ニューヨークやサバンナがきしむ中、米国東海岸のノーフォーク、フィラデルフィア、チャールストンは通常通り機能していた。さらに、ノーフォーク港のバージニア・インターナショナル・ゲートウェイ・ターミナルとチャールストン港のワンド・ウェルチ・ターミナルは超大型コンテナ船(ULCV)の受け入れが可能である。
つまり、ある程度の柔軟性を持つオペレーターやラインにとって、最大船型であっても、より速く、より容易な米国へのコンテナ輸送は、市場情報さえしっかり把握していれば、2022年になっても可能だったのだ。