今回の「違法」判決からみる行政とトラブルになった場合の争い方のポイント
ところが、横浜地裁は、「堀木訴訟判決」の判断枠組を踏襲したにもかかわらず、生活保護受給額の減額について「違法」という判断を下したのです。
すなわち、最高裁が示した「ゆるゆる」な基準に立ちながら、「裁量が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用である」という結論に至ったのです。これはきわめて画期的なことです。
なお、横浜地裁だけでなく、大阪地裁、熊本地裁、東京地裁も同様に、判例の判断枠組を維持しつつ、生活保護受給額の減額を違法とする判決を下しています。
横浜地裁は、違法という判断を行う根拠として、以下のような要素を挙げています。
・受給額の減額の判断は専門家による会議での議論を経ていなかった
・引き下げの判断に用いた物価指数は、テレビやパソコンの価格の下落の影響を大きく受けたものである。生活保護受給世帯はテレビやパソコンへの支出が少ないことからすれば、合理的関連性を欠く
これは「判断過程審査」という手法を用いたものと考えられます。
簡単にいえば、判断の「内容」自体ではなく、判断を導くための「過程」がおざなりだったから違法だということです。
判断過程審査においては、以下の要素を総合的に判断します。
・判断過程に不合理な点があった
・考慮すべき事項を考慮していない
・考慮すべきでない事項を考慮に入れてしまっている
・事実に対する評価が明らかに合理性を欠く
堀木訴訟判決は、国の社会保障に関する施策について「専門技術的な考察とそれに基づく政策的判断」がなされていることを前提としています。したがって、専門家の会議における議論等を尽くしていなかったことは「判断過程に不合理な点があった」ということになります。
また、判断材料に用いた物価指数が生活保護受給者の生活実態とかけ離れた要素に影響されていたという点は、「考慮すべき事項を考慮していない」「考慮すべきでない事項を考慮に入れてしまっている」「事実に対する評価が明らかに合理性を欠く」ということになります。
なお、2022年10月20日現在、横浜地裁の判決文は公表されていませんが、同様の「判断過程審査」の手法を用いて「違法」の判決を下した東京地裁の判決文は裁判所のHPで見ることができるので、参考までにご覧ください(東京地判令和4年(2022年)6月24日「生活保護基準引下げ違憲国家賠償等請求事件」)。
この「判断過程審査」の手法は、最高裁判例の判断枠組にのっとって国会・行政府の専門技術的裁量を尊重しつつも、判断過程に着目することで、場合によっては「違法」の判断を行うことができる点で、画期的です。
生活保護の支給額の是非については、様々な議論がありえます。しかし、「明日はわが身」という言葉もあります。「自助努力」ではどうにもならないことがあります。また、社会保障制度の縮小や年金の給付水準の引き下げが問題となっています。
そんななか、この判断枠組は、国・地方自治体から理不尽な扱いを受けて紛争になってしまった場合に、争い方についてのヒントを与えてくれるものです。いざというときに備え、行政とトラブルになった場合の有効な「争い方」を知っておいて損はないといえます。
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