患者のQOL向上システムを実現したDX事例
薬の飲み忘れや飲み間違いを防げるオンライン薬局
■事業:PillPack(ピルパック)
■運営:PillPack
〈ビジネスモデルの概要〉
PillPackは、2013年に米国にて設立されたオンライン薬局です。さまざまなロボットを配備した大規模拠点で処方箋薬を集中的に調合し、患者の自宅まで配送することで、一般の薬局では成し得ない高い生産性を実現しました。
2018年、Amazonに買収されましたが、その時点で全米をカバーするなど、急速な成長を遂げています。PillPackの特長は、朝、昼、夜といった服用のタイミングごとに、飲むべき複数の薬を1つの袋に封入することです。しかも、袋の表面には、封入した薬の種類や用量だけではなく、服用すべき日時も大きく印字してあります。
昨今、高齢者を中心に、毎日何種類もの薬を服用している人がいます。朝、昼、夜と1日に3回飲むべきものもあれば、1日1回寝る前だけでよいもの、食間に服用するべきもの、特定の症状が出たときだけに使うべきものもあります。これらの薬をきちんと服用し続けることは簡単ではありません。
世界保健機関(WHO)の調査によれば、患者の約50%は「薬を飲み忘れた経験がある」と回答しています。薬の正確な服用が治療効果の向上に寄与することを考えると、PillPackは薬の販売を通じて患者のQOL(Quality Of Life)に貢献しているといえるでしょう。
進化の方向性
PillPackを買収したAmazonは、2020年にAmazon Pharmacyを立ち上げました。今では、処方箋の情報をもとにおすすめのサプリメントや保険商品などをレコメンドする機能が付加されています。2021年には、オンラインでの遠隔診療と対面診療を組み合わせた独自の診療サービスを提供するAmazon Careを開始しました。もちろん、新型コロナウイルス感染症の診療にも対応しています。
この驚くほど機敏な事業展開を見るに、AmazonがQOLのすべてを支える存在になる日も遠くはないのかもしれません。
日本政府は、新型コロナウイルス感染症の流行に対応すべく、2020年4月に処方箋薬の宅配を事実上解禁しました。つまり、Amazon Pharmacyと同様のビジネスを展開できる基盤が整いつつあるということです。
オンライン薬局が日本でも普及すれば、中小の薬局を中心とした既存の医薬品サプライチェーンはインダストリアルトランスフォーメーションを半ば必然的に進めることになります。医薬品の流通に関わる事業者は、その未来を見据えた変革を先んじて断行すべきです。