野菜工場設立には多くのハードルが
野菜工場建設の構想はまとまったものの、実際に立ち上げ、軌道に乗せるのは簡単ではありませんでした。人伝てに姫路で野菜工場をやっているという人を紹介してもらい、そこに通いながら少しずつイメージをつくっていきました。
農業用ハウスを建設し水耕栽培で野菜をつくればいいのではないかと思いましたが具体化するにはいろいろな問題がありました。もちろん、初期投資額は大きなものになります。実際に生産はうまくいくのか? 仮に販売できる野菜ができたとしても販路をどう確保するのか? といったこともあります。継続的・安定的に売れて利益が出るようにするのは簡単なことではありません。
これまで私は会社を経営しながら意識的に社外のさまざまな集まりに出てネットワークを広げていました。それによってできていたさまざまな接点を活かし、いろいろな場で野菜工場のアイデアを披露しアドバイスを求めました。市の農業委員会の人やJAの人、実際に農業に従事している人、経営コンサルタントといった人々です。
しかし反応は総じて芳しいものではなく「野菜づくり? まったく経験ないんでしょ? 頭で考えるほど簡単ではないよ」「農業は自然相手だ。仮に工場化しても、機械部品をつくるのとはわけが違う。コンスタントに利益を出すのは難しいだろうね。事業として永続できるかどうか…」などの意見がありました。耳に入ってくるのは悲観的な話ばかりです。
そもそも鉄工所の社長に農業が分かるはずがないという感覚を誰もがもっているのだと思います。農業用機械の開発ならまだしも、農業そのものに、しかも従来とは違う手法でチャレンジしようとしているわけですからそう感じる人が多いのも当然です。
農業、商業、工業のプロフェッショナルが集結
時間をかけて研究を続けていきました。アイデアを思いついたときから5年が過ぎた頃、地域経済の活性化のために次世代リーダー育成塾を立ち上げましたが、単なる勉強会に終わらせるのではなく、積極的に何ができるかを考え、新規事業を生み出していくことについて意見交換を何度も繰り返しました。
塾での学びの一環として新規事業創造に関連する4つの研究会をつくることにしていましたが、私はその一つを農業分野との関わりを考える野菜工場研究会にすることを提案しました。そして次のリーダーを目指す意欲的な塾生とともに、研究会活動として先行事例を見に出かけたり工場栽培の研究会に参加したりしながら、一歩一歩、新工場の構想を具体化していくことにしたのです。
その結果、生産そのものについてはこれでできるという見通しをもつことができました。しかし販路の開拓をどうするかといったことも含めて、農業経営という意味ではまだまだ未解決の部分が多く残りました。
そんなとき、地元の農家ですでにトマトの水耕栽培を行っていて販路も確保している人に出会うことができました。しかも研究会の考えていることを伝えると、一緒にやろうと手を挙げてくれたのです。非常に頼もしい仲間の出現となりました。さらに水耕栽培の一種である養液栽培の研究者で、養液栽培プラントの設計にも詳しい園芸技術コンサルタントにも出会うことができました。
そして私たちのものづくりの技術があります。出会いを積み重ねることで実にうまく農商工の専門家が一つになることができました。
3者が連携することで野菜工場の事業アイデアは大きく前進し、研究会の発足から2年後の2012年、「ひむか野菜光房」を設立し代表取締役には私が就任しました。農業(生産技術)、商業(販路開拓)、工業(企業経営とファイナンス)のどれかひとつが欠けても、この野菜工場はできなかったと思います。地域でこの3者が一つの目的をもって結束することで得られる可能性の大きさを、改めて感じることができました。
島原 俊英
株式会社MFE HIMUKA 代表取締役社長
一般社団法人 日向地区中小企業支援機構 理事長