事業所得と雑所得を区別する基準は?
国税庁が「事業所得」の判断基準について通達改定を行った背景には、昨今、副業を「事業所得」として大きな赤字を計上し、それを損益通算によって給与所得から差し引くという無理筋な「節税」を行うケースがみられるようになったことがあります。
そういうケースに網をかけるため、「事業所得」に該当するか否かの判断を厳格に行おうという方針がうかがわれます。
では、事業所得と雑所得の区別はどのような基準によって行われることになっているでしょうか。
◆判例の「事業所得」の判断基準
事業所得は「事業」による所得、雑所得は、他の9種類の所得のどれにもあてはまらない所得をさします。
したがって、問題となるのは「事業所得」の定義です。
これについては、重要判例があります(最判昭和56年4月24日)。
この事件は、弁護士がクライアントから毎月定額で得ていた「顧問料」が「事業所得」と「給与所得」のどちらにあたるかが争われたもので、最高裁は「事業所得」について以下の定義を示しています。
「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」
このうち、事業所得と雑所得との区別で重要なポイントは、「反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務」にあたるか否かです。
◆売上の大小ではなく実質的・総合的判断が重要
この基準で注目していただきたいのは、「意思」の要素を含んでいることです。
これは、売上の大小だけで形式的に区別してはいけないということを示していると考えられます。
どういうことかというと、事業を始めて最初のうちは、うまくいかず、売上が思うように立たないことがあります。そういう場合でも、その業務を継続し、収益を上げていこうという意思が客観的に認められるのであれば、「事業」と扱うべきだということです。
極端な話、売上がゼロだったりマイナスだったりしても、その業務を継続してある程度の収益を上げようとする意思が客観的に認められれば、「事業」にあたります。
これに対し、売上が数百万だったとしても「事業」にあたらない可能性もゼロではないということです。
したがって、国税庁が修正前の通達改定案で示していた「収入金額300万円以内」という基準は、判例の基準に抵触する可能性があり、その点が大きな批判を浴びたといえます。
結局、国税庁は、「収入金額300万円」の代わりに「帳簿書類の保存」を重視することにしました。
たしかに、帳簿書類を作成し保存していれば、通常は、その業務を将来にわたって反復継続し、収益を上げていこうとする意思が認められるといえます。
その意味で、帳簿書類の作成・保存の有無を重視することには一定の合理性が認められると考えられます。