(※写真はイメージです/PIXTA)

40代の男性のもとに、父親逝去の知らせが届きました。男性は父親と折り合いが悪く、成人以後、ほとんど顔を合わせていませんでした。相続手続きのために書類を整理していたところ、父親のものではない通帳を発見。男性は驚きますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

高圧的な父に反発し、大学卒業後は疎遠に

今回の相談者は、40代会社員の山川さんです。60代で急死してしまった父親の相続について悩んでいるということで、筆者の事務所を訪れました。

 

山川さんの父親は地主の家系の出身で、複数のマンションや駐車場を経営しており、賃貸業で生計を立ててきました。山川さんはひとりっ子で、60代の母親は健在です。

 

「私は父親と折り合いが悪く、成人してからはほとんど口を利かない状態でした。家から早く出たくて、大学卒業後はすぐに妻と結婚したのです」

 

山川さんは、子どものころから高圧的な父親が苦手で、中高生になると反発するようになり、ときには取っ組み合いの親子げんかになったこともあるといいます。

 

「妻は医療系の専門職に就いているのですが、たまに家に行くと妻にしつこく絡んで、〈女性は家庭を守るべきだ〉など説教をするのです。妻は嫌がるし、3人いる子どもたちも父におびえるし、実家から足が遠のく一方でした…」

 

そのような背景から、父親とはすっかり疎遠になり、たまに山川さんのマンションに母親が訪ねてくる程度の付き合いにとどまっていました。

「申し訳ないが、相続には詳しくない」と、税理士が…

山川さんは、父親が多くの資産を保有していることは知っていました。しかし、成人以降疎遠になっていたため、資産状況の詳細を聞いたことはありません。山川さんの母親も同様らしく、長年、父親から一組のキャッシュカードと通帳を渡されたきりで、そこに振り込まれた生活費をやりくりしていました。とはいえ、母親がいうには、渡されるお金が少ないわけでも、使い道を追及されるわけでもなく、なにかしら臨時の出費がある場合は、頼めばお金を渡してくれたため「楽でいい」と思っており、〈触らぬ神に祟りなし〉状態で生活していたそうです。

 

父が保有する不動産の管理は、長年にわたって同じ税理士に任せており、また、重要書類は書斎の金庫にしまわれていたため、どこにどのような資産があるのか、山川さんも母親も、さっぱりわからない状態でした。

 

「相続手続きをするにあたり、最初は父が契約していた税理士の先生を頼ろうと思ったのですが、レスポンスが悪くて。しつこく食い下がったところ〈申し訳ないが、相続はくわしくない〉と突き放されてしまいまして…」

存在に気づかなかった、引き出しの奥の手提げ金庫

筆者のところに依頼があったとき、山川さんは自力でかなりのところまで調査を進め、複数の銀行口座から残高証明も取得していました。また、調査を進めるうち、地方にも不動産を保有していることが判明するなど、いろいろ驚くことがあったようです。

 

筆者の事務所の提携先の税理士は、山川さんが調べた資料のほか、父親が依頼していた税理士から受け取った資料を手掛かりに、さらに調査を進め、何とか先が見えてきたと思われました。

 

ところがそんな折、山川さんから急な連絡がありました。

 

「書斎の整理をしていたら、引き出しの奥の手提げ金庫から複数の通帳が出てきたのです」

 

それは、山川さん、山川さんの母親、そして山川さんの3人の子どもたちの名義の通帳でした。それぞれ1000万円近い残高があり、長年にわたって賃貸収入の一部を積み立てたもののようでした。

 

「こんなに長い間積み立ててくれていたなんて。父は、私たちのことを思っていてくれたんですね…。父の気持ちも知らず、大変な親不孝をしてしまいました…」

 

山川さんは目を赤くしました。

「亡き父親のお金」としか、説明のしようもなく…

通帳の合計金額は、およそ5000万円にものぼりました。しかしそれ以外に、父親名義の預金も5000万円以上あります。印鑑の管理状況や、山川さんの子どもたちの年齢等を考慮する限り、亡くなった父親の財産以外の説明ができません。

 

今回の相続財産の規模をからすると、かなりの確率で税務調査が入ると考えられ、もし修正申告となれば、過少申告課税が加算されてしまいます。

 

また、修正申告の大半が現金・預金の申告漏れであり、その中でも名義預金は目をつけられやすいといえます。

 

金融機関を調べれば、お金の流れを追うのは容易なため、現預金の調査後、修正申告となるケースは多くあります。山川さんは税理士からのアドバイスに基づき、名義預金についてすべて父親の預金として申告しました。

 

税務調査の可能性がある数年間を不安な心持ち過ごすのは大変つらいものです。山川さんは名義預金をすべて父親の財産として計上し、無事に相続手続きは完了しました。

 

「父とは気持ちが通うこともなく、反発するばかりでした。預金を積み立ててくれていたのを知って、ひどく動揺してしまいました」

 

最後の打ち合わせの席で、山川さんはうつむきました。

 

「父にはひどいこともたくさん言ってしまったし、子どもたちともほとんど会わせませんでした。父はいつ会ってもイライラした様子だったのですが、本当は、親として私や子どもたちのことを気にかけてくれていたのですね」

 

相続の場で、複雑な思いを経験される方は少なくありません。山川さんの父親も、息子や孫に愛情があるのに、感情が行き違い、交流がうまくいかなかったのかもしれません。多くの相続をお手伝いしている筆者にとっても、ひときわ心に残るケースとなりました。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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