老人と呼ばないで!
自分ではまだ若いつもりなのに、突然「ちょっと、そこのおじいさん(おばあさん)!」などと話しかけられて、こころよく返事ができる人がどれくらいいるでしょうか。
筆者の知人の話ですが、その方が60歳になった時、町の老人クラブから「60歳になりましたので、町会の老人クラブに入ってください。」と勧誘を受けたそうです。しかしその知人は「老人クラブだと!人を年寄り扱いするな!」と憤慨して、勧誘をその場で断ってしまいました。
この例のように、現代の日本人は60歳になったくらいでは、自分が老人になったという自覚はありません。
事実各地の老人クラブでも、新規加入すべき年齢に達した人達が、「老」や「老人」のつくクラブの名称に抵抗を示し加入を断るケースが続出した結果、クラブ員が激減している状況にあります。
「現代日本人の年齢はかつての七掛けだ!(年齢七掛説)」などとも言われます。ということは、今の60歳はかつての42歳(60歳×0.7)に相当するとも言えるのです。もし42歳であるとするならば、まだまだ働き盛りです。まさか自分が老人になったと思わなくても当然でしょう。
法の世界でも、2008年3月31日までは、高齢者の保健に関する法律である「老人保健法」という法律がありました。しかしこの法律も、「老」ないしは「老人」という語句が含まれているのはイメージが悪いなどの理由により、同年4月1日から「高齢者の医療の確保に関する法律」と改称されてしまったくらいです。
厚生労働省の予測では、2055年には65歳以上の高齢者が日本の人口に占める割合は39.4%と、ほぼ4割を占めるとしています。
そうなると、日本国民の半数近くが高齢者ということになってしまいます。とすれば60歳代は特段高齢でもなくなり、いわば中間的世代の人達となります。将来的には60歳代あたりまでは「高齢者」の枠組みからはずされる時代となっているかも知れません。
いずれにしても「老」ないしは「老人」がつく言葉の使用はイメージが悪く、最近では急速にタブー化してきています。他の言葉で言い替えられる場合は、言い替えるべき時代になってきたのでしょう。
本連載では「50歳から90歳まで」をシニアと定義
「老人」という呼び方への反発から、一時はこの世代の人達を婉曲に表現して、頭髪が白髪となることから連想される、「シルバー」などというような呼び方もなされていました。その後年月を経ておおよそ今世紀に入った頃から、よりマイルドなイメージの呼称として、「シニア」という言葉が使われ始めました。
今では「シニアライフ」「シニアグラス」「シニア住宅」など、シニアという言葉は柔らかで優しい語感が好まれたためか、すっかり日本社会に定着してしまいました。このシニアの語源は、英語の「senior」から来ており「年長者」、「上級生」、「上級者」、「高いランクの地位を持つ」などを意味しています。
ではシニアとは、いったい何歳から何歳までを指す言葉なのでしょうか。実際のところ、シニアの法的な定義というものは存在しません。各分野の研究者や各種団体などにおいても、シニアの年齢区分を40歳以上としていたり、65歳以上としていたり様々です。
ただ最近では、シニアとは「おおよそ50歳以上の世代」を指すことが増えてきたようです。たとえば映画や旅行などの各種割引特典や、ゴルフやスキーなどのスポーツの世界などでは、50歳以上をシニアと区分する例が多いようです。
50歳は、区切りの良い年齢だからでしょうか。シニアグラスをかけ出す年齢だからでしょうか。それとも60歳定年のカウントダウンに突入する年齢だからでしょうか。理由はともあれ、シニア期間の始期が50歳とすると、終期、すなわち死亡年齢は何歳になるのでしょうか。もちろん人の寿命は異なりますから、終期も人それぞれです。
ただし本連載ではシニア期に必要な資金等を具体的に算定するため、シニア期の終期を現在の日本人の平均寿命である約84歳(男女平均)より多少の余裕を見て、90歳と人為的に区切っています。そうすれば平均寿命より少しくらい長生きしても、資金的にショートすることはないはずです。
厚生労働省の「年金財政検証」その他各種の統計においても、日本人の将来的な平均寿命はおおよそ90歳に達すると予測しています。
また、90歳は古来「卒寿」として長寿の節目のひとつとされています。更に昨今では「人生90年時代!」と声高に叫ばれるようになってきたことなども勘案しました。つまり、本連載における「シニア」とは、「50歳から90歳までの方々」と定義づけさせて頂いております。