大企業・製造業・業況判断DI+8と1ポイント悪化、非製造業は+14で1ポイント改善
中小企業・非製造業の業況判断DIは+2。コロナ禍前以来のプラスに戻る
全規模・全産業設備投資計画、22年度+16.4%。ソフトウェア投資+17.8%
企業の物価見通し、全規模・全産業6項目全てで、初の4調査連続・上昇率アップ
●9月調査日銀短観では、大企業・製造業・業況判断DIが+8と6月調査の+9から1ポイント悪化した。9月調査の調査期間は8月29日から9月30日である。QUICK短観(9月調査)やロイター短観(9月調査)は6月調査から各々1ポイント改善していたが、各々の調査期間は9月8日と9日までで、日銀短観の調査期間終盤の回答数は少ないにしても、その後の8月分米国消費者指数発表、FOMCの3回連続0.75%幅の利上げ、米国経済の先行き悪化懸念、日米株価下落の影響などで慎重な意見が増えたものと思われる。
●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は19年12月調査では12%だったが、新型コロナウイルス感染拡大のため、20年6月調査で41%まで大きく増加した。しかしその後改善に転じ、21年6月調査で9%まで低下し9月調査・12月調査でも9%と横這いだった。しかし、22年3月調査で10%と7期ぶりに悪化し、6月調査で12%に、今回9月調査で13%と3期連続で悪化した。
●9月調査の大企業・製造業の業況判断DI+8は6月調査の「先行き」見通し+10より2ポイント悪く、景況感は思っていたよりも悪かったことになった。
●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは+9と「最近」の+8から1ポイントの改善が見込まれている。「良い」と「悪い」の割合が減り「さほど良くない」が増えている。様々な不透明さが影響していると思われる。
●全規模・全産業の22年度下期の想定為替レートは9月調査の126円42銭で、6月調査の119円12銭から円安方向になったものの、今朝の実際の為替レート1ドル=144円台よりかなり円高水準である。輸出企業(大企業・製造業)では22年度下期の想定為替レートは9月調査では122円81銭と、先行きの不透明さからか、現状と20円以上異なり、円安メリットが正しく経営判断に活かされていない面もありそうだ。
●一方、大企業・非製造業・業況判断DIでは、前回6月調査で+13のプラスだったが、今回9月調査では1ポイント改善し+14になった。1ポイントずつでほぼ横ばい圏ではあるものの、製造業が悪化、非製造業が改善と対照的な動きになった。非製造業は前回6月調査の「先行き」見通し+13を1ポイント上回り、事前の予想を僅かに上回って、足元の景況感が改善し底堅さが感じられる数字となった。新型コロナウイルス感染第7波があっても、経済活動自粛要請がなかったことなどがプラスに働いたとみられる。
●大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査から19年12月調査まで4%または5%で安定的に推移していたが、新型コロナウイルスの影響で20年に入り悪化、20年6月調査で32%に増加した。しかし、その後改善し、22年6月調査では12%に、今回9月調査では10%まで低下した。
●大企業・非製造業・業況判断DIの「先行き」は+11と「最近」の+14からと3ポイントの悪化が見込まれている。但し「悪い」と答えた割合は「先行き」は8%で「最近」の10%から2ポイント減少している。その中で業況判断DIが横這いなのは、先行きが不透明で「良い」の割合が5ポイント減り「さほど良くない」の割合が増えているからだ。
●中小企業・製造業の業況判断DIは今回9月調査では▲4と6月調査の▲4と同じだった。6月調査の「先行き」見通しでは▲5とみていたので、足元の景況感は1ポイント予測よりも良かったという結果になった。
●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、前回6月調査で▲1だったが、今回9月調査では+2まで改善した。コロナ禍前の19年12月調査の+7以来のプラスになった。6月調査時点の「先行き」▲5からは7ポイントの改善で、予測より大幅に改善したことになった。
●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲5と「最近」▲4から1ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は「先行き」を慎重にみる傾向があり、▲3と「最近」+2から5ポイント悪化する見通しである。
●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになり、以降プラスが続いていたが、20年3月調査で▲4と19年12月調査の+4からマイナスに転じ、6月調査では▲31と2ケタのマイナスになった。しかし、その後21年12月調査で+2のプラスに転じるまで6期連続で改善した。22年3月調査では0と7期ぶりに悪化したが、前回6月調査では+2、今回9月調査では+3のプラスと2期連続で改善した。6月調査の「先行き」▲1の見通しに比較すると4ポイント改善した。今回の9月短観は全体としてみると、景況感は概ね横這いで推移したと言える。先行きは+1の見通しだ。景気に底堅さはあるが、先行きの不透明さが景況感に影を落としていよう。
●今回9月調査の雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)では製造業・非製造業とも大企業・中堅企業・中小企業の3カテゴリーで変化幅が全てマイナスになり、6月調査からの限界的な変化として不足感が増した。9月調査の先行き見通しでも、「最近」からの変化幅が大企業・非製造業が横這いであることを除く、他のすべての組み合わせがマイナスで、不足感が拡大している。企業の判断では、先行きの雇用に関しては雇用の過剰感が増しているというような状況ではないことがわかる数字になった。販売価格判断DIが概ね上昇傾向であり、賃金の上昇に繋がっていくか注目される。
●9月調査の22年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+21.5%となった。中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+1.3%とプラスに転じた。全規模合計・全産業の設備投資計画・前年度比は+16.4%となった。
●また、GDPの設備投資の概念に近い、ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全規模合計・全産業の設備投資の22年度の前年度比は+14.9%で、2ケタ増加の計画になっている。また、ソフトウェアの全規模合計・全産業の設備投資の22年度の前年度比は+17.8%である。
●9月調査の販売価格判断DI(「上昇」-「下落」)は大企業・中小企業と製造業・うち素材業種・うち加工業種・非製造業のすべての組み合わせのうち、素材業種を除き、「最近」の変化幅はプラスとなっている。
●「企業の物価見通し」では、全規模合計・全産業でみて、販売価格の見通しでは、1年後が+3.1%と前回6月調査の+2.9%から0.2ポイント上昇した。3年後が+3.8%と前回から0.3ポイント上昇、5年後が+4.2%と前回より0.2ポイント上昇した。また、物価全般の見通しでは、1年後が+2.6%と前回より0.2ポイント上昇、3年後が+2.1%と前回より0.1ポイント上昇、5年後が+2.0%と前回より0.1ポイント上昇となった。今回の短観の企業の物価見通しは、全規模・全産業の上昇率見通しが6つの項目全てで、4回連続高まるというこの調査開始以来の連続記録更新となった。
●販売価格の見通しでは将来に行くほど伸び率が上昇し、物価全般の見通しでは将来に行くほど伸び率が鈍化していることも興味深い。これまでは、物価全般が上がらない中、賃金を含めコストを抑えることで販売価格を上げないようにするという行動をとる企業が多かったように感じられたが、9月調査の結果からみると、必要に応じて販売価格を上げていくという雰囲気が出てきているようだ。
●今回9月調査の日銀短観は総じてみると、米国景気の先行き、エネルギー価格や穀物価格の動向、インフレの動向、欧米の中央銀行の金融政策、円安の行方、新型コロナウイルス感染状況の行方など様々な懸念材料による、不透明さからもたついたが、一方で底堅さも感じられる内容だった。
(2022年10月3日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2022年9月調査 日銀短観』を参照)。
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト