部品供給不足の影響緩和等を受けて生産は3ヵ月連続して前月比上昇に
基調判断は「生産は一進一退」から「生産は緩やかな持ち直しの動き」に上方修正
8月分景気動向指数・一致CIによる景気判断は7ヵ月連続で「改善」か
鉱工業生産
●鉱工業生産指数・8月分速報値・前月比は、部材供給不足の影響の緩和が継続したことなどから生産用機械工業などが上昇し、全体で+2.7%と3ヵ月連続上昇した。季節調整値の水準は99.5で、コロナ禍前の19年9月の102.4以来の水準になった。前年同月比は+5.1%で6ヵ月ぶりの上昇である。
●8月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち生産用機械工業など10業種が前月比上昇、需要の減少などで電子部品・デバイス工業など5業種が前月比低下であった。
●経済産業省の基調判断は21年11月分から22年3月分まで、「生産は持ち直しの動きがみられる」になっていたが、22年4月分で「生産は足踏みをしている」に下方修正され、5月分では「生産は弱含んでいる」に連続して下方修正されていた。6月分で、「生産は一進一退で推移している」に上方修正され、前回7月分でも、「生産は一進一退で推移している」の判断は継続であった。今回8月分では、「生産は緩やかな持ち直しの動き」に上方修正された。
●製造工業予測指数8月分は前月比+5.5%の上昇であった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値では、8月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲0.6%低下の見込みであった。90%の確率に収まる範囲は▲2.9%~+1.7%になっていた。実際には、鉱工業生産指数の前月比が+2.7%の上昇になったが、これは製造工業予測指数を2.8ポイント下回る上昇率で、試算値最頻値を3.3ポイント上回った。
●8月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+1.9%と3ヵ月連続の上昇になった。前年同月比は+4.8%と8ヵ月ぶりの上昇になった。
●8月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比+1.4%と3ヵ月連続の上昇になった。前年同月比は+6.6%と12ヵ月連続の上昇となった。
●8月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲1.8%と2ヵ月ぶりの低下になった。前年同月比は+4.9%と12ヵ月連続の上昇となった。
●鉱工業全体の在庫循環の動きをチェックするために、縦軸に鉱工業在庫指数・前年比、横軸に鉱工業出荷指数・前年比をとった在庫サイクル図をつくると、20年10~12月期、21年1~3月期では「意図せざる在庫減局面」に、4~6月期、7~9月期では「在庫積み増し局面」だった。10~12月分では、「在庫積み上がり局面」となった。22年1~3月期では在庫が前年同期比+6.8%、出荷が前年同期比▲1.8%の伸び率で引き続き「在庫積み上がり局面」継続。4~6月期も、在庫が前年同月比+4.2%、出荷が前年同月比▲3.6%で、「在庫積み上がり局面」継続となった。7~8月分・速報値でも、在庫が前年同月比+6.6%、出荷が前年同月比+1.2%で、「在庫積み上がり局面」継続となった。
●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると9月分は前月比+2.9%の上昇、10月分は前月比+3.2%上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、9月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲1.2%の低下になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲3.6%~+1.2%になっている。
●先行きの鉱工業生産指数、9月分に先行き試算値最頻値前月比(▲1.2%)で延長すると、7~9月期の前期比は+5.5%の上昇になる。また、9月分を製造工業予測指数前月比(+2.9%)で延長すると、7~9月期の前期比は+7.0%の上昇になる。生産指数は、4~6月期が前期比低下になったが、7~9月期は前期比上昇に戻る可能性が大きそうだ。
●先行きの鉱工業生産指数、9月分を先行き試算値最頻値前月比(▲1.2%)で延長、10月分を製造工業予測指数前月比(+3.2%)で延長し、11月分・12月分を前月比横這いとすると、10~12月期の前期比は+10.2%の上昇になる。また、9月分を製造工業予測指数前月比(+2.9%)で延長、10月分を製造工業予測指数前月比(+3.2%)で延長し、11月分・12月分を前月比横這いとすると、10~12月期の前期比は+12.3%の上昇になる。生産指数10~12月期の前期比は、7~9月期に続き2四半期連続で上昇する可能性が大きそうだ。
アニマルスピリッツ指標
●経済産業省は製造工業生産予測指数からアニマルスピリッツ指標を作成している。21年6月調査結果で、アニマルスピリッツ指標(生産活動マインド指標:DI)は10ヵ月連続のプラスの数値となり、企業の生産マインドは強気超の状況が続いていたが、21年7月~22年9月調査結果ではDIは15ヵ月連続のマイナスになっている。22年9月調査結果のDIは▲7.7である。22年8月調査結果のDI▲13.8からマイナス幅が縮小した。
8月分の景気動向指数・速報値予測
●8月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+1.2程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、消費者態度指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差寄与度プラスになり、新規求人数、新設住宅着工床面積、日経商品指数の3系列が前月差寄与度マイナスになるとみた。
●8月分の一致CIは前月差+2.0程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の6系列が前月差寄与度プラスになり、投資財出荷指数、輸出数量指数の2系列が前月差寄与度マイナスになるとみた。
●8月分で景気の基調判断は、7ヵ月連続して、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」になると予測する。予測通りだと前月差は上昇で、3ヵ月後方移動平均の前月差がプラスになる。このため、再び「足踏み」に下方修正になるための「3ヵ月後方移動平均の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1ヵ月、2ヵ月または3ヵ月の累積)が1標準偏差以上。かつ当月の前月差の符号がマイナス」という条件は満たさないとみられる。
●8月分の先行DIは44.4%程度と景気判断の分岐点の50%を若干下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数の4系列がプラス符号に、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列がマイナス符号になるとみた。
●8月分の一致DIは87.5%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率、輸出数量指数の7系列がプラス符号に、商業販売額指数・卸売業1系列がマイナス符号になると予測する。
(2022年9月30日午前9時現在)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2022年8月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト