強制退去の判断基準は「信頼関係の破壊」の有無
居住目的の賃貸マンションやアパートは、各入居者が平穏に居住できる環境にあることが重要です。このため、一般的な賃貸借契約書においては、他の住民への迷惑行為を行わないとすることが賃借人の義務として規定されています。
また、仮に契約書に記載されていないとしても、賃借人が賃貸借契約上負うべき付随的義務として、「正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務」を負っていると解釈されています。
したがって、もし賃借人が他の住民に対して迷惑行為を行ってトラブルを生じさせた場合には、賃借人としての債務不履行(契約違反)に該当します。この場合、賃貸人としては契約違反を主張して契約を解除できれば退去してもらうことが可能です。
もっとも、ここで問題となるのは、賃借人の迷惑行為を理由に貸主が契約解除を求めた場合であっても、「信頼関係破壊の法理」が適用されて解除が認められない場合もある、という点です。
すなわち、形式的に契約違反に該当したからといって解除が認められるわけではなく、契約違反が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか、という点でさらに検討を要することとなるわけです。
どの程度の迷惑行為であれば契約解除事由となるのかということについては明確な基準がないため、公表されている裁判例を調査して、その傾向を探っていく必要があります。
今回紹介するのは、両隣の賃借人と騒音を巡ってトラブルを複数回起こしていた賃借人に対して契約解除が認められた事例(東京地方裁判所平成10年5月12日判決)です。