2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻。中立的立場を強調する中国だが、中国・ロシア間には、過去の国境紛争といった競合的関係があるものの、政治的・経済的側面においては、互いに相手を利用するというメリットがある。世界各国の目を意識しつつ、中・ロのトップ同士が神経をすり減らすやり取りを繰り広げている。中国の銀行・民間企業の動きはさらに巧妙だ。実情を見ていく。

一方、ロシアへの「近寄りすぎ」に躊躇も

同時に、中国はロシアに近寄りすぎることも望んでいないと思われる。上記、2022年2月の習氏の「中ロ協力に天井はない」発言に対し、ロシアのウクライナ侵攻後、党中央内で「後に発生し得るまずい結果(後果)を考えない愚かな発言だった」との声があるという。

 

その後3月、駐米中国大使(元外交部報道官、10月の第20回党大会で党中央委員に昇格)は米国TVのインタビューに答え、「中ロ協力に天井はないが、ボトムライン(底線)はある」とし、「底線は公に認識されている国際法や国際関係の基本原則だ」と軌道修正している※4

 

※4「习近平做了一件蠢的事?(習近平は1つの愚かな事をしたのか?)」万維読者網中国瞭望(海外華字誌)2022年3月26日

 

もともと「天井なし」は次期外相有力候補とみられていたロシア専門家で親ロ派の外交部副部長(副大臣クラス)のせりふだが(公の場で「中ロ協力に天井はなく終点もない。ガソリンスタンドがあるだけだ」と発言したことで有名)、同氏は2022年5月、メディアを統括する国家広電局副局長に転任。降格人事ではないが、外交からは離れた。

 

ロシアの侵攻が続く中、習・プーチン首脳会談が4ヵ月近くおこなわれなかったことも、ロシアに近寄りすぎることについて、中国が躊躇していることを示すものとの見方がある(台湾中央研究院欧米研究所研究員)※5

 

※5 「习普彼此・打气,他为何对普京“不离不弃”(習とプーチンは互いに励まし合っている。習はなぜプーチンに対し“離れず見捨てず”か)」万維読者網中国瞭望 2022年6月18日

 

その2回目電話首脳会談に関する中国側報道は、記事『緊迫のウクライナ情勢…ロシアへの「中立的立場」を崩さぬ中国が国際社会に及ぼす影響』で触れた通りだが、クレムリンの発出した声明は「双方がエネルギー、金融、工業、運輸その他の分野で協力を拡大することで合意し、さらに両首脳は軍事関係の発展についても議論した」とかなり温度差がある。

 

中国は9月初旬、ロシアの軍事演習「ボストーク2022」に白ロシアやシリアなどと一緒に参加(実戦経験が少ない中国人民解放軍にとっては貴重な機会)。欧米専門家の間では、ウクライナ情勢を機に、中ロが軍事面での関係を強化する兆しとする見方と(たとえば米シンクタンク戦略国際問題研究所CSIS)、中国はロシアがウクライナ侵攻でみせている「まずい軍事パーフォーマンス」で、ロシアを問題の多いパートナーだとみなすにいたっており、ロシアとの軍事協力について、現状は維持するがさらに強化することはないだろうとの見方が交錯しているが、後者の見方がやや有力か。

 

ストックホルム国際平和研究所推計によると、2002~21年、中国の武器輸入の大半はロシアからだが、ここ10年間で半減。中国が武器調達でロシアに大きく依存してきたことは、ロシアの軍事面での中国に対する「心理的優越感」に繋がってきたが、経済力や技術開発の面で中国はロシアより進んでおり、これが軍事面に反映されてくると、中国は武器輸入でロシアに依存する必要はなくなる。他方、ロシア側では以前から、中国が武器開発でロシアの技術を盗んでいるとの疑念が強い※6、※7

 

※6「China faces dilemma over military ties with Russia: move closer or start to back off?」South China Morning Post September 4 2022

 

※7「新研究报告:侵乌战争促进俄中军事关系(新研究報告:ウクライナ侵略戦争が中ロの軍事関係を促進)」美国之音(ボイスオブアメリカ中国語版)2022年9月6日

習氏、パンデミック後初の外遊で「ウ問題」に言及せず

9月中旬、習氏はパンデミック発生後初の外遊(SCO首脳会議出席のため、カザフスタン、ウズベキスタン訪問)で、ロシアのウクライナ侵攻後初めてプーチン氏と対面での首脳会談に臨んだ。会談でウクライナ問題がどう議論されるのか各国が注目。ロシア側声明ではプーチン氏がウクライナ問題に関して、「中国が公平中立な立場をとっていることを評価」「中国の懸念と疑問を理解する」と発言したとされたのに対し、習氏はウクライナ問題に言及することはなく、中国外交部声明も前2回の電話首脳会談後の声明と異なり、今回はプーチン氏の当該発言部分も含めウクライナ問題にはまったく言及せず。

 

習氏は「互いの核心的利益に関わる問題について両国は相互支持を強化」としたものの、会談で言及された核心的利益は中国の台湾問題だけで、プーチン氏が台湾問題について米国を非難したのに対し、習氏が強調したのは貿易や文化交流などの分野での実務協力で、ウクライナ問題には言及せず、またその関連で米国を非難することもなかった。会談での習氏の冷ややかな表情に象徴されたように、両者の温度差が浮き彫りになり、中国がウクライナ問題でこれまでよりロシアと距離を取り始めたようにみえる※8。ある中国評論家はこうした中ロの関係を「ねじれたアライアンス(別扭联盟)」と評している※9

 

※8 「Is China Breaking With Russia Over Ukraine?」The Diplomat September 17 2022

 

※9 「中俄的别扭联盟(中ロのねじれたアライアンス)」環球時報、2022年9月16日

 

会談直後の中国外交部記者会見で、AFPが「互いの核心的利益」には中国がウクライナ問題でロシアを支持することが含まれるのかと質問したのに対し、外交部は直接の回答を避け、「今回会談の状況については、中国側が発表している関連情報をみてほしい」とだけ回答している。中国官製メディアの会談関連報道も「ウクライナ」にはまったく言及しなかった。

プーチン氏「中国の懸念と疑問を理解する」の真意

首脳会談直後、プーチン氏の側近と言われるロシア安全保障会議書記が訪中し、中国外交トップの楊潔篪政治局委員と会談。しかしここでも、ロシア側声明が「両国が軍事協力、合同軍事演習をさらに進め、両国参謀本部間の連携を強化することで合意した」としたのに対し、中国外交部声明は「全面的戦略協力パートナーの関係の中身を不断に充実・強固にしていく」など、一般的・抽象的な内容に留めている。

 

習氏の外遊直前には栗戦書党政治局常務委員・全人代常務委員長(中国ナンバー3の位置付け)が訪ロ。おそらく中国から全面的な支持を得ていることを国際社会に示したいロシア側が故意に流したと思われるが、非公開会議で栗氏が発言している動画が出回った。

 

栗氏は「ウクライナ問題について、米国とNATOがロシアの国家や人民の安全を脅かしており、それに対しロシアが必要な措置を採っていることを理解し支持する」「中国は様々な方面から対応し協力する(策応)」と発言しており、欧米は中国がウクライナ問題で明確にロシア側に立っていることを示したと受け止めた。

 

プーチン氏の「中国の懸念…を理解」発言は中国の曖昧な態度に対する不満を表したものか、あるいは、栗氏訪ロ後の欧米の反応を受け、軌道修正を図る中国に配慮したものかもしれない。習・プーチン首脳会談で栗氏の面目は丸潰れとの声があるが、ウクライナ問題を巡って、中国指導部内が揺れていることが透けて見える。

中国のネット上で拡散・削除された、プーチンの発言

ウクライナ問題で難しい立場にある習氏に配慮したつもりか、あるいは積極的にはロシアを支援しない習氏に対する「あてこすり」か、発言の真意は不明だが、習氏もオンラインで出席したサンクトペテルブルク国際経済フォーラム(6月17日)でのプーチン氏の発言は、図らずも両国の実務的関係を示している。

 

すなわち、プーチン氏は「ロシアと中国は全方位的友好関係にあるが、それは決して中国はすべての事柄でロシアに迎合すべきということではない。ロシアもそれは同様」「各国にはそれぞれの国家利益、民族利益がある」と発言。

 

この発言が中国ネット上で拡散すると、「旧ソ連共産党が中国共産党の“父”だったという過去の歴史から来るロシアの優越意識が現れている」「中国指導部が旧ソ連、ロシアに卑屈に服従してきたことがこうしたロシアの優越意識を醸成した根本的原因」など中国の一般の人々の怒りを買い、さらには中国共産党に対する批判まで出てきたことから、その後、中国内ではプーチン氏の当該発言部分はネットから削除された。

 

(出所)2022年3月17日付 海外華字誌自由亜州電台

[図表2]ロシアのウクライナ侵攻で中国はジレンマに? (注)「プーチンのウクライナ侵略で、習近平はあちらを立てればこちらが立たずの状況に(左右為難)」習氏がプーチン氏と一緒にプールに入るのをためらっている図。
(出所)2022年3月17日付 海外華字誌自由亜州電台

 

中国は欧米の制裁に直面しているロシアを支持し続けられるのか? 当局が曖昧な態度をとるなかで、民間部門では企業が欧米の2次制裁を懸念して輸出を控える他、主要銀行もロシア顧客との関係は維持しつつも、制裁との衝突を避けようとする動きをみせている。

 

侵攻直後から2大国有銀行はロシア製品輸入のための信用供与を停止し、中国が26.5%の投票権を持つアジアインフラ投資銀行(AIIB)はロシア、白ロシア関係の活動を停止・再審査。大銀行が2次制裁を避けるため、国内市場に重点を置く小銀行に対ロ業務を移管する動きもある。ロシア経済は中国にエネルギーを輸出する一方、基礎的な消費財など完成品の輸入を中国に依存してなんとか生き延びることができるとしても、ハイテク製品・サービス輸入が制限され、長期的にはイノベーション、潜在成長力が損なわれる可能性が高い。

 

 

金森 俊樹

 

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