普段は気がつかない「メンタルセット」の存在
行動を起こすとき、何かを決めるときの判断基準になる自分の心のもち方のことを、心 理学では「メンタルセット」と呼んでいます。簡単に言えば、思い込みや先入観のような ものです。
例えば、多くの人は「有名な監督の映画は面白い」「賞をとった映画は面白い」という メンタルセットをもっているため、レンタルショップで「○○賞受賞」と書かれたDVDを選ぶ、という行動をとります。
こうしたメンタルセットは、しっかりとした根拠があるわけではなく、大抵漠然と「当然こうだろうな」と信じ込んでいるものです。なので、実際に映画を見てみて「どこが面白いのかさっぱりわからなかった」なんてこともあります。
普段はもっていることにすら気づかないようなメンタルセットの存在ですが、私たちは行動や選択する際には必ず自分のメンタルセットに「どうする?」と相談をしているのです。
どの映画を借りるか迷っている自分に対し、メンタルセットが「賞をとっているから見て損はないよ」「この監督は有名だからきっと名作だよ」とささやきます。このとき「賞をとった映画は面白い」というメンタルセットを強くもっている人は、誰かが「あの映画はつまらなかった」と忠告しても、「きっと彼には良さがわからないんだろう」と適当に聞き流します。
人間は、自分のメンタルセットに合わない価値観は受け入れず、跳ね除けてしまうのです。このようなメンタルセットの有無は、特に問題ではありません。しかし、次に挙げるような例についてどう捉えるかは、人生に大きく関わってきます。
「ポジティブな思考」で快挙を成し遂げた日本人の例
昨年、日本人で2人目の快挙として、富樫勇樹選手がNBAのチームと契約したことが話題になりました。彼の身長はなんと167センチだそうです。数あるスポーツの中でも殊に背の高さが重要視されるバスケットボールですから、彼がこの身長で「NBAを目指す」と言ったとき、一部の人間はきっと「無理だ」という反応をとっただろうことは想像に難くありません。
しかし彼は、他の選手よりも背が低いというハンディに対し、「それを補えるくらい筋力トレーニングに励もう」と思ったのだそうです。そして、現在はNBAのマイナーリーグに所属していますが、2メートルを超える選手がごろごろいる米プロバスケットボー ルの世界に仲間入りするという偉業を見事にやってのけました。
もし、自分の背が低かった場合を想像してみてください。「バスケット選手は背が高くないとなれない」というメンタルセットをもっている人は、「160センチ台ではNBAなんて絶対に無理」と考えるでしょう。それに対して、富樫選手のように「背が低くても頑張ればなれる」というメンタルセットをもっている人は、「たとえ160センチ台でも他の部分で補えばNBAだって狙える」と考えられるのです。
前者は、シュートをブロックされたりリバウンドをとれなかったりするたびに「自分の背が低いせいだ」と思い、ますます「背が低い自分には無理」というメンタルセットを強めていきます。もしうまくプレイできても、メンタルセットに合わない価値観は受け入れずに「偶然できただけ」と軽く流し、すぐに忘れてしまいます。そして、自信を失う出来事ばかりが続くと、最終的に努力をやめてしまうのです。
後者は、うまくシュートを決めたり、ドリブルで抜いたりするたびに「背が低くても自分の技術は通用する」と思い、「頑張ればできる」というメンタルセットをより一層固めます。シュートがブロックされたり、ダンクする選手を見ると、自分はドリブルなど他の技術をさらに上達させねばと奮起します。そうして、どんどん上達していくのです。
このバスケットの比較からよくわかると思いますが、どんなメンタルセットをもつかによって自分のやる気が変わり、世界が変わり、人生が変わります。「自分には東大なんて無理」というネガティブなメンタルセットと「自分は東大なんて行けて当然」というポジティブなメンタルセット、どちらをもっていた方が勉強したときの伸び方が良いかは明らかです。
ネガティブなメンタルセットだと、自分にとってプラスになる出来事をなかなか受け入れないので、自信をつけたり成長したりするチャンスを逃してしまうでしょう。そもそも、メンタルセットという存在があることを指摘されなければ、自分がどんなメンタルセットをもっているかということにさえ気づくのが難しいものです。
メンタルセットは自分の心構えですから、「もしかして自分はネガティブなメンタルセ ットをもっているんじゃないか? 」と自覚することで変えていくことができます。ただ、何年もの長い時聞をかけてつくり上げられたものですから、ある日突然ガラッと改変させるのは容易ではありません。
毎日、プラスのメンタルセットをもつよう意識することで、徐々にですが、必ず日々の行動に変化が現れます。