「勉強すれば、戦争はやってはいけないことがわかる」
先生はお別れをして戦争に行ったのではないか。太宰の文にはそう書かれています。戦場におもむく若い先生が子どもたちに残した言葉だと思って読むと、ここに書かれた言葉の一つ一つが心に響きます。
そして、今私が「勉強は何の役に立つの」と聞かれたら、「きちんと勉強すれば戦争は本当にバカバカしいことだ、決してやってはいけないということがわかるはずだと思うの」と答えようと思います。
この章は孫の世代を思いながら書きました。子ども世代とはある程度、時代を共有しています。戦争を本当に体験したのは私の親の世代であり、私は戦場は知りません。でも小さい子どもとして戦争が日常生活をどれだけ壊すかということは身に泌みています。
私の子どもの世代の日常に戦争はありません。沖縄に暮らしていたら違うでしょうが、困ったことにそれ以外の場で暮らしていると実感は難しいのです。同じ日本で生きているのに、このような事態になっているのを放っておいてはいけませんね。
世界を見れば争いは絶えません。本格的な国と国との戦争は事実上もうできないでしょうが、それで戦争がなくなるかといえばそうではありません。
内戦は身近な人との戦いであるだけに、より厳しいものとなり、辛いです。戦争については考えなければなりませんし、その時、太平洋戦争での私たちの体験はやはり若い人たちに語らなければいけないと、とくにこの頃強く感じます。
子どもでしたから小さな体験ですが、その時の私と同じ年齢の子どもに伝えるのはとくに大事と思えます。
最近は、新型コロナウイルスのパンデミック、異常気象など、人間同士の戦いではありませんが、私たちの生き方に関わる難しい問題に向き合わなければならなくなりました。
これをウイルスの撲滅とか自然の征服というように戦いと受け止めている人がいますが、自然は私たちを含んでいるものであり戦う相手ではありません。その中で上手に生きる方法を探さなければならないのです。
ここにも今よりは自然と接することの多かった私たちの世代の体験を伝える役割があるように思います。小さな人たちの未来が幸せであるように願いながら、私たちが小さかった頃の体験を話してあげることは大切です。
できれば樹かげや日だまりでゆっくりお話ししたいですね。
中村 桂子
理学博士
JT生命誌研究館 名誉館長