従業員の解雇が「極めて難しい」、日本の労働制度
経営者の皆さんはよくご存じの通り、日本の労働制度は労働者側に有利なものとなっています。雇用主側から労働者を解雇するのは容易ではありません。
契約社員やアルバイトなどの有期契約労働者の場合、正規労働者とくらべて解雇が簡単な印象があるかもしれませんが、契約の更新を重ね通算5年を超えた場合は、無期労働契約に転換することになり、こちらも正規雇用の労働者と同様、解雇ができなくなります。
ある経営者から「解雇ができなくなる〈無期労働契約〉に至る前に、ある従業員の契約を更新せずに現在の契約終了と同時に辞めさせたい」という相談を受けたことがあります。
その従業員は、3ヵ月しか勤務していないにも関わらず、会社側に引っ越し費用を請求する、ほかの従業員の行動を1つ1つあげつらっては「労基に行く」といった逆パワハラのような発言を繰り返す、無断欠勤が多いなど、問題行動を繰り返す、いわゆる〈モンスター従業員〉でした。
「上長からの注意に大声をあげて反論するなどの行為もあるなど、このままでは業務に支障が出るばかりか、ほかの従業員に危害が及ぶ危険もあると思いまして…。そのため、契約の更新をしない旨を伝えたところ、今度は〈会社の都合で退職するのだから、退職金をよこせ〉と主張してきたのです…」
経営者の方はさらに言葉を続けます。
「事業に集中したいのに、モンスター従業員が引き起こす社内トラブルの対応に時間もエネルギーもとられてしまい、本当に腹が立ちましたが、最近ではあまりの話の通じなさに恐怖すら感じます。さっさと退職してもらいたいのですが、なにも貢献していない人間に、退職金なんかびた一文払いたくありません!」
「労働審判手続」で、合意退職に持ち込めば…
このようなトラブルに直面した際は、まず裁判を起こすのではなく、裁判所で「労働審判手続」を行います。
労働審判手続とは、労働問題を迅速、かつ円満な解決を図るための制度で、中立の立場となる裁判官と有識者である2人の労働審判員のもと、審理を行い、解決を目指します。
とはいえ、労働審判は「奥の手」的な解決方法です。そのため、解雇や懲戒に関してかなり係争性が顕在化している状態となって、はじめて労働審判へと持ち込むことになります。
労働審判まで進むと、会社側としては、
「合意退職しましょう。そうすれば〈解雇された・懲戒処分を受けた〉という事実を残さずに転職できますよ」
と、解雇したい人材を説得して納得してもらい、遺恨なく次の会社に移ってもらう…という、会社側からすればノーダメージな解決策が図れます。そのため、労働審判を落としどころにする会社も多くあります。
しかし、それに納得しない労働者の方も一定数います。その場合は「訴訟手続」に移行し、裁判で争うことになります。
しかし、上述の通り、日本の法制度は労働者側に有利にできているため、従業員が法で定められた自分の権利を主張すれば、多くの場合、企業側が負けてしまいます。
労働審判までいってしまうと、弁護士費用をはじめとする多くの費用がかかりますし、いくら迅速な解決を図るといっても、審判にはそれなりの時間も手間もかかります。裁判まで進んでしまうと、さらなる時間も手間もお金もかかってしまいます。
「なんでこっちがお金を…」
これを回避するためにも「手切れ金を渡すので、これで諦めてください」と、会社側が折れるケースも多くあります。「懲戒免職を取り下げて10万円払うから、もううちの会社には関わらないでください」としてしまえば、会社側からすると裁判をするよりも楽に解決することができるのです。
相談に来た経営者の方は、筆者の提案にたいして「こっちは悪くないのに、なんで手切れ金を払うことになるんだ…」としきりにぼやいていましたが、日本の労働法の現状とともに「モンスター従業員相手に時間や手間やお金をかけるより、手切れ金を支払って、速やかに縁を切った方がいいですよ」と説明したところ、納得され、その方向で解決を図ることになりました。
トラブルを起こした人に去ってもらうためにお金を渡すのは、「盗人に追い銭」のような感じで、経営者としては気分がよくないと思いますが、トータルで利益を考えた場合、会社としては得になるケースがずっと多いのです。
労働関係の問題解決は、きちんとした手順で手続きをとらないと、のちのち問題になることが多いため、今回は筆者が代理として手続きを行い、事なきを得ました。
経営者による「片手間の労務管理」はリスクになる時代
経営者が注力すべきは「いかに事業の売上を伸ばすか」という点に尽きるでしょう。そのためには、それ以外の部分において、いかにストレスを軽減するか・手を煩わせずにすむか、ということが重要になります。その点からも、労務管理などは専門家に任せたほうがメリットは大きいといえます。
退職や転職をする従業員のうち、およそ9割の方は問題も起こしませんし、会社と揉めごとになることもありません。
しかし、残りのおよそ1割のトラブルを起こす方は、アグレッシブな傾向が強く、一度揉めてしまうと、周囲を巻き込んだ大事(おおごと)になりやすいのです。そのため会社側も、ある程度のところで折れて解決を図るという選択肢が、問題解決の一番の近道になることが多いのです。
労務管理は会社にとって重要な業務ですが、経営者が片手間にやるにはかなり荷が重いものです。また、打つ手を誤ると、ほかの従業員の士気が下がるばかりか、ビジネス自体の進行を妨げることになりかねません。従業員への対応にさらなる慎重さが求められるいま、労務管理を専門家に依頼する方法も、検討の余地があるのではないかと思われます。
(※登場人物の名前は仮名です。守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)
寺田 健郎
山村法律事務所 弁護士
カメハメハ倶楽部セミナー・イベント
【11/19開催】相続税申告後、
約1割の人が「税務調査」を経験?!
調査の実態と“申告漏れ”を
指摘されないためのポイント
【11/19開催】スモールビジネスの
オーナー経営者・リモートワーカー・
フリーランス向け「海外移住+海外法人」の
活用でできる「最強の節税術」
【11/23開催】ABBA案件の
成功体験から投資戦略も解説
世界の有名アーティスト
「音楽著作権」へのパッション投資とは
【11/24開催】事業譲渡「失敗」の法則
―M&A仲介会社に任せてはいけない理由
【11/28開催】地主の方必見!
相続税の「払い過ぎ」を
回避する不動産の評価術