落札してもいない商品を、芸能人が…「ステマ規制」導入の背景
2012年、芸能人によるペニーオークションのステルスマーケティング問題が、マスコミでも大きく報道されました。読者のなかにもご記憶の方がいるでしょう。
ペニーオークションとは、入札のたびに手数料が必要になる形式のインターネットオークションで、通常のオークションにくらべて表示上の開始価格や落札価格は低額となる傾向があるものの、入札時の手数料が高額になるケースがあります。
具体的には、この仕組みを悪用した、参加者が入札しても落札できずに手数料をだまし取られる「ペニーオークション詐欺事件」が社会問題化するなか、多数の芸能人がblog等で落札していない商品を落札したかのように記事にし、不祥事化したという問題です。
あれから10年以上の時間が経過し、「ステルスマーケティング」という言葉自体も、すでに一般社会に浸透したといえるでしょう。
かつて大きな問題となり、いまでは言葉の認知度も高くなった「ステルスマーケティング」ですが、これまでは野放し状態でした。現状のままではステルスマーケティングが規制できず、消費者被害を生じさせる可能性があることから、令和5年10月1日より、ステルスマーケティング規制=「ステマ規制」の施行が決定されたのです。
いうまでもありませんが、ステマ規制が導入されることによって、消費者がステマに惑わされる機会が大きく減り、無用な消費者被害を防ぐことができる点は大きなメリットです。
他方で、事業者は、消費者に自社の商品を手に取ってもらうため、日々様々な形で広告を打っています。その際、事業者がステマ規制の概要をしっかりと学んでいなければ、ステマ規制の対象となり、罰則の対象とされる危険性もあります。
企業サイドは戦々恐々…「ステマ規制」の概要とは?
今回のステマ規制は、一般消費者向けに広告を打つ企業にとって、すでに大きな関心事となっています。ステマ規制導入間近となったいま、概要と注意点について法的観点から解説しましょう。
①ステルスマーケティング=広告・宣伝であることを隠した広告・宣伝行為
そもそも「ステルスマーケティング」とは、広告・宣伝であるにもかかわらず、消費者に対して広告・宣伝であることを隠し気づかれないように行われる広告・宣伝行為のことをいいます。
消費者は、販売する事業者による広告であることがわかっていれば、「多少大げさに言っているのではないか」「悪いところを隠して、良いところばかり謳っているのではないか」と考えることができ、そのような点も考慮したうえで商品・サービスの選択を行います。
しかし、事業者による宣伝でない場合(例:第三者による感想、口コミ)は、そのような警戒心がはたらかず、表示された内容について、そのまま信じてしまう危険性をはらんでいます。
消費者のそのような心理を狙ったマーケティング方法が、まさにステルスマーケティングと呼ばれるものであり、これによって消費者は自由かつ合理的に商品・サービスを選ぶことができなくなってしまいます。
②ステマ規制の法文化
このような消費者被害を防ぐため、令和5年10月1日より、景品表示法(以下「景表法」といいます。)第5条に以下の規定が追加されることになりました。
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
今回、ステマ規制として、行ってはならない表示として定められたものは、第3項(上記「三」)の内容です。
この法律の条文は、内閣府による告示(令和5年3月28日内閣府告示第19号)をもとにしたものですが、よりわかりやすく、消費者庁にて「運用基準」が示されています。
今回導入されるステマ規制については、この運用基準を理解することが重要になります。
「とりあえず法定相続分の共有」で生まれた問題とは?
実際のトラブル事例から学ぶ、相続の揉めるポイントと回避策>>1/5配信