「パワハラの対応策」は、セクハラのそれとほぼ同じ
ここでは、実際にパワハラが起こってしまった場合の対処法について解説していきます。
パワハラが起きた際の対処法の基本は、セクハラが起きた場合の対処法とほぼ同じです(『セクハラ加害者「その処分、重すぎない!?」…〈卑劣行為〉と〈処分内容〉悩ましいバランスの問題』参照)。
まず初動としては「事実関係の確認」が最重要です。セクハラ、パワハラを問わず、ハラスメントが起こった場合は、事実確認が重要となること頭に入れておいてください。
事実確認の際は、個人でおこなうのではなく、専門家に依頼しきちんとした判断してもらう体制を作る、という点もセクハラと同様です。
次に、こちらもセクハラと同様、会社に対して「請求が来る可能性」を検討します。下記の3つの請求のうち、2つの請求が会社に対してのものである可能性があります。
★加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)
民法709条の趣旨は、損害を与えた加害者を罰するのではなく、生じてしまった損害を賠償させ、被害者を救済しよう、という非常に単純なものです。たとえるならば、歩行者が自動車にはねられ入院した場合、自動車を運転していた加害者に損害賠償を請求するのと、法的根拠は同じです。
つまりこの場合は、加害者のパワハラによって生じた損害を加害者が賠償せよ、という請求です。
★会社に対して、使用者責任に基づく損害賠償請求(民法715条)
民法715条は、会社を経営するにあたっての会社側が負わなければならない「使用者責任」に関する法律で、会社がおこなう事業の際に、従業員が生じさせた第三者に対する損害については、会社も損害を賠償する責任を負う、ということが定められています。
つまり、今回解説しているようなパワハラの場合は、業務の執行中に従業員が、第三者(この場合はパワハラ被害者)に損害を与えた場合、会社も損害を賠償せよ、という請求を受けることになるのです。
★職場環境配慮義務違反による損害賠償請求(民法709、415条)
職場環境配慮義務違反による請求は、これも会社に対する損害賠償請求です。
そもそも会社は、従業員の身体の安全の確保や、職場においておこなわれる性的な言動などで、従業員が不利益を受けずに働けるよう、必要な配慮をしなければいけない、職場環境配慮義務というものがあります。
つまり、職場でパワハラが起きないようにするための配慮を怠っていれば、職場環境配慮義務違反になってしまうのです。
その後、加害者側に対してどのような処分をするかを検討します。
パワハラとセクハラの相違点はどこか?
このように、セクハラとパワハラが起きた際の対処法は共通することが多くありますが、もちろん異なる点もあります。
相違点①目撃者の存在がある
セクハラは性的な部分を含むため、密室でおこなわれることも多く、目撃者は期待できないことが多いのです。
しかしパワハラは、目撃者がいるケースもある程度あります。例を挙げると、ほかの社員が多くいるフロアで大声で叱責している現場を見た、他者を巻き込んで特定の社員を無視しろといわれた、といったケースなどです。
このように、パワハラは被害者から通報される場合だけではなく、目撃者から通報があるような場合があるのです。
そのため、パワハラの事実調査は加害者と被害者といった当事者だけに話を聞くのではなく、目撃者のような第三者に話を聞く必要があるケースも多くあります。
その場合、目撃者は同じ会社で働く社員であることがほとんどです。そのため、目撃者のプライバシーには十分に配慮する必要性がでてきます。
もし十分な配慮ができていなかった場合は「お前が通報したんだな」ということになり、新たな被害者を生み出しかねません。
相違点②認定の難しさ
パワハラはセクハラよりも認定が難しいことがあげられます。
パワハラの認定は難しく、難しさゆえに時間がかかります。すると、ハラスメントだったと認定されるまでのあいだ、パワハラをしたかどうか未確定の加害者に対し、どのような対応をとればいいのかという問題が浮上するのです。
調査の結果が出るまで、加害者にはどのような対応をすればいいか、という点はかなり重要です。もし対応を誤って認定より重い処分を下してしまった場合、今度は加害者から会社へ請求がおこなわれる可能性があり、会社側が痛い目を見ることもあり得るのです。
相違点③認定のための調査の難しさ
そして、事実確認の難しさもあります。繰り返しになりますが、ハラスメントの認定には、事実関係の認定、事実調査が大切であり、事実調査をもとにハラスメントかどうかを認定しなければなりません。
上述しましたが、パワハラには目撃者がいる可能性があります。その目撃者を含め、被害者、加害者に事情聴取をする際に、口裏合わせなどをおこなわないように、事情聴取の順番に気を使わなければいけません。ここに留意しないと「本当に事実関係があったのかどうか」という点が確認できなくなり、ハラスメントかどうかの認定ができなくなるのです。
また、加害者と被害者、目撃者それぞれが顔を合わせないための環境調整も必要になります。これができないと、口裏合わせが起きてしまったり、加害者からの逆恨みが起きてしまったりする可能性があります。しかし逆にいうと、ここを注意することにより、二次被害防止にもつながります。
「指導としては少しいきすぎていた」場合はどうすれば?
このように、パワハラは加害者、被害者に加えて第三者などからの聞き取りを経て、パワハラに当たるかを判断しますが、もしパワハラとして認定がされなかった場合も、対応として難しい点があります。「パワハラとは認定されなかったけれど、指導としては少しいきすぎていた」という場合に、処分をすべきか否か、という点です。
「指導か、パワハラか」というラインはグラデーションであり、ここからがパワハラでここからが指導といった、明確な線引きはできません。もし指導だと判断されたとしても、限りなく黒に近いグレーである場合は処分しなくていいのか、といった問題も出てくるのです。
また、そのようなケースで処分を下す際に、処分の手続きの適正も重要となります。
このように、パワハラの認定は配慮すべき事情が多い、非常に難しい問題です。個人ですべての事情に気を使い、判定をするのは非常に難しいため、特殊な訓練を受けた研修を受けた人事や法務部門の方や、専門家に任せることが一番です。
労災認定との関係
令和2年6月から、精神障害に掛かる労災認定基準として 「パワーハラスメント」 の項目が追加されました。
労災認定自体は使用者の無過失責任によるものですが、労災が認められたということを根拠に、労働者から使用者に対して損害賠償請求をする数が増え、それによって請求が認められる件数も増えるのではないか、ということが予想されています。
「その他のハラスメント」と競合することもある
「パワーハラスメント」は、パワハラ単体ではなく、その他のハラスメント競合する可能性があります。
たとえば「マタニティハラスメント」は、パワハラと同じく人事労務の相談件数としては多く、大きな問題とされているハラスメントのひとつですが、パワハラも同時に起こるケースが多くみられます。そのほかにも、セクシャルハラスメントのなかでも、LGBTQ+の方のアウティングに関連する問題にパワハラが絡んでくる可能性もあります。
加害者の言動にセクハラとパワハラが重なるなど、ハラスメントが重畳的になればなるほど加害者が負うべき責任は重くなり、加害者の責任が重くなるほど、会社への責任追及も厳しくなります。
このような点から、会社側も適切に対応しないと、会社にとって大きなダメージになりかねないのは自明だといえます。
こういったことを避けるためにも、会社側の適切な対応が求められるのです。
寺田 健郎
山村法律事務所 弁護士
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