(画像はイメージです/PIXTA)

資産家の独身女性が知り合いの男性と養子縁組し、養子となった男性が養母を殺害した容疑で逮捕されるという、まるでドラマのような事件が起こりました。もし相続人が犯罪を犯した場合、相続権はどうなってしまうのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

「民法891条」が定める相続欠格事由とは?

養子による殺人事件とは、まるでドラマや小説の話のようです。しかし今回、現実の世界で、養子縁組をした養子が資産家である養親の殺害容疑で逮捕されました。本件はこの事件を参考に、相続関係がどうなるかという説明をします。

 

民法891条は、相続人となれない場合を定めています。この相続人となれない理由を「相続欠格事由」と言います。

 

民法891条が定める相続欠格事由は、次のとおりです。

 

1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者

 

2 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者

 

3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者

 

4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者

 

5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

 

本件に関する相続欠格事由は1号なので、1号についてのみ説明します。

 

1号は、被相続人か、先順位又は同順位の相続人を殺害するか、殺人未遂をしたことが相続欠格事由となっています。

 

早く財産を相続したいから、相続を発生させるために子どもが親を殺すことが被相続人を殺害する場合です。

 

遺産を独り占めするために、2人兄弟の兄が弟を殺す場合が同順位の相続人を殺害する場合となります。

 

1号の相続欠格事由で注意することは、単に殺害をすることが相続欠格事由ではなく、刑に処せられたことが必要となっています。

 

遺言書の偽造など他の相続欠格事由は、有罪となり刑に処せられる必要はないので、民事裁判で遺言書の偽造などを証明すれば、偽造した人は相続人ではなくなるのですが、被相続人や相続人を殺害した場合は、単に殺害したことを民事裁判で証明しただけではだめで、殺害した犯人が刑事裁判で有罪判決を受けて、懲役刑などの刑罰を受けないと相続人ではなくならないのです。

 

ただ、891条1号の相続欠格事由は、主に殺人や殺人未遂なので、映画やドラマ、小説などでは、遺産を巡る殺人としてよく出てきますが、現実にはあまり多くありません。しかし、現実の世界で似たような事件が起きた可能性があることから、テーマとして取り上げてみました。

相続人でなくなった養子に、財産の返還を請求できる

本件を検討すると、まず、養子縁組が有効であっても、相続欠格事由があれば相続人とはなれなくなるので、遺産を取得することはできなくなり、過去に相続手続で取得したものでも、本来の相続人に返還する必要があります。

 

本件でいえば、養子の冬樹さんが相続欠格事由により相続人でなくなると、次順位の相続人である母親の春子さんが相続人となりますから、春子さんは相続人でない冬樹さんに相続で取得した財産を返還するよう求めることができることとなります。

 

よって、養子縁組が有効である限り、夏子さんの遺産は冬樹さんが相続するので、春子さんは取り返すことはできないとする選択肢①は誤りとなります。

 

次に、相続欠格事由は、殺人や殺人未遂ではなく、それにより刑事裁判で有罪判決が下され、刑に処せられることが必要です。

 

そこで、被相続人の殺害は相続欠格事由に該当することから、冬樹さんの逮捕により冬樹さんの夏子さん殺害が証明できれば冬樹さんは相続資格を失い、春子さんは冬樹さんが相続した遺産を返還請求できるとする選択肢②も誤りとなります。

 

したがって、相続欠格事由は、被相続人の殺害だけでなく、殺害を理由に刑に処せられたことが必要なので、冬樹さんが逮捕されただけでなく、殺人罪で有罪となり、懲役刑などの処罰を受けた場合に、冬樹さんは相続資格を失い、春子さんは冬樹さんが相続した遺産を返還請求できるとする選択肢③が正解となります。

 

現実の事件は、容疑者が逮捕された段階で黙秘しているということなので、今後刑事裁判で有罪となるか、刑に処せられるかはわかりません。しかし、ドラマや小説ではありませんが、殺人が起きた場合、その殺人により一番得をした人に動機があり怪しいと疑われますので、相続で得するために殺人をしてばれないようにするというのはかなり難しいと思います。

 

しかも、ばれてしまうと殺人罪で刑も受けるうえに、相続人資格も失って本来取得できる遺産も取得できないこととなるので、かなりリスクの高い行為となります。もっとも、そんなリスクの説明をしなくても、そもそも読者のみなさんには縁のない話だと思いますが…。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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