「協調性」や「学力」を重視し、紋切り型の人材育成を目的とした戦後教育をいまだ色濃く引き継ぐ、現代日本の教育現場。社会に出てから必要な「独創性」や「問題解決能力」、「知識の運用」などの礎となる「主体性」の育成に重きを置かれない教育は、毎年新社会人が送り出されている社会全体にどのように影響を与えているでしょうか。世界中で多様な教育現場を視察し、独自に編み出した教育ビジネス構想を実現させるため、2015年にソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立。現在同企業の取締役会長を務める礒津政明氏による著書『2040 教育のミライ』から、現代日本における教育の問題点とその改善策について解説します。
社会人は学校を、生徒は社会を知らない国ニッポン
あらためて私の考える日本の学校教育における最大の問題は、「社会との接点が少ないこと」です。これは教科の授業についても、日々の学習についてもいえます。新たな学びと出合う場所が、学校や学習塾だけにかぎられてしまっているのです。
よく「社会や地域に開かれた学校」と語られるものの、通常、その開かれ方は極めて限定的です。せいぜい、社会科見学で地元の工場や商店街を回ったり、地域の伝統行事を単発の授業で取り入れて地域の歴史を理解する、といったことくらいでしょう。
本来学校教育が目指しているのは、「子どもを社会に貢献する人材に育てること」のはずです。かつては工場型人間だった目標となる人材像が、未来クリエイターに変わっているのは、受け入れる器である社会の方が大きく変わってきているからです。
普通の社会人にとって、現在の学校教育がどうなっているかは、メディアを通してしか知ることができません。実際、「ゆとり教育では円周率を3と教えることになった」というのは「デマ」だったのですが、いまだに事実だと信じている人は多いのではないでしょうか。
自分の子どもが小学生や中学生になって初めて、いまの学校教育が昔と何も変わっていないことに気づくのです。それはまるで、近代化が進んだ都市の真ん中に、うっそうとしたジャングルが残っているかのような違和感です。
長期的な繁栄を望む企業であれば、「こんな人に入社してほしい」という人物像があるはずです。「海外に進出したいので、語学が堪能で交渉力のある人材がほしい」という企業が増えれば、タイムラグはあるにせよ、それに応じて学校教育の内容も語学を厚めにし、交渉術も学べるよう少しずつ変わっていく必要があります。
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
取締役会長
教育フューチャリスト
1975年、千葉県銚子市生まれ。
幼少よりコンピュータとプログラミングに親しみ、小学生の頃から数学、科学、電子工作、市場経済について独自の視点で探究する。同時に、銀行員から鮮魚店経営に転身し、趣味の油絵、水彩画、短歌、書道で全国紙にたびたび掲載される腕前だった父から商売の基本とデザインセンスを学ぶ。
2000年東京工業大学大学院修了後、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。ソフトウェアエンジニアとして、ソフトウェア・ネットワーク・ウェブ関連の研究開発に携わる。2012年、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に異動、新規事業育成に従事。
教育分野における独自のビジネス構想を実現させるため、2015年、ソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立、代表取締役社長に就任。2022年6月より現職。ロボット・プログラミング学習キット「KOOV®」や体験型プログラミング教材「PROC™」などを展開しつつ、技術と思想面から教育分野にイノベーションを起こすべく邁進している。
ほかにもZ会奨学金選考委員、株式会社銚子電気鉄道 社外取締役などを務める。2019年に発売された『5分で思考力ドリル』(ソニー・グローバルエデュケーション著・学研)シリーズは、累計26万部発行のベストセラー。
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連載現代日本の教育における問題点とその改善策をズバリ解説