「協調性」や「学力」を重視し、紋切り型の人材育成を目的とした戦後教育をいまだ色濃く引き継ぐ、現代日本の教育現場。社会に出てから必要な「独創性」や「問題解決能力」、「知識の運用」などの礎となる「主体性」の育成に重きを置かれない教育は、毎年新社会人が送り出されている社会全体にどのように影響を与えているでしょうか。世界中で多様な教育現場を視察し、独自に編み出した教育ビジネス構想を実現させるため、2015年にソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立。現在同企業の取締役会長を務める礒津政明氏による著書『2040 教育のミライ』から、現代日本における教育の問題点とその改善策について解説します。
未来では子どもの多角的な情報をデータベース化
「ブロックチェーン」という言葉でイメージがわかない人は、ここでは「さまざまな人がアクセス可能な巨大なデータベース」のことだと思ってもらえば十分です。
個人の学習履歴や生体情報、能力、人となり(第三者による評価)、課題活動の実績など、その子の教育に関するデータを一つのデータベースに保存し、アクセス権を持つ機関だけがその情報を閲覧できる包括的なしくみです。
データは個人情報ですから、すべての情報をオープンにする必要はありません。何を開示して何を非開示にするかは行政と教育機関が議論を重ねながらルール作りを行い、必要なデータを必要な機関に即座に開示できるしくみを構築していくことが望ましいでしょう。
従来、個人の教育データといえば履歴書や卒業証明書くらいしかありませんでした。
それが完全にデジタルで一元管理できるようになり、さらにそのデータを分析するしくみができると、AIの手を借りた、より多面的な総合評価が可能になります。
大学入試や採用試験も、教育ブロックチェーン上のデータの審査とオンライン面接だけ、という時代がやってくるのです。
弊社の主力商品がロボット・プログラミング教材のため意外に思われることが多いのですが、私自身は、ロボットよりもブロックチェーン関連技術の研究により長く携わってきました。
20数年前にソニーに入社した時点で、ネット上で管理・取引できる電子マネーについての研究希望を出していましたし、2008年にブロックチェーン技術によるビットコインが出てきたときはそのコンセプトとしくみの完成度の高さに感動し、本業のかたわら、ブロックチェーン技術を用いた事業のアイデアをよく考えていたものです。
そして弊社を立ち上げた翌年の2016年には、かねてより温めていた「ブロックチェーンを利用した学習到達・活動記録のオープン化技術」を発表しました。
教育におけるステークホルダーがさまざまなインセンティブを軸に結びつき、中心となる学習者を有形無形に支える壮大なエコシステムを作ることを目標に掲げたのです。
当時は総務省がスマートスクール実証事業を開始しており、弊社もブロックチェーンを活用した教育データの流通をテーマに事業を受託することになりました。
株式会社ソニー・グローバルエデュケーション
取締役会長
教育フューチャリスト
1975年、千葉県銚子市生まれ。
幼少よりコンピュータとプログラミングに親しみ、小学生の頃から数学、科学、電子工作、市場経済について独自の視点で探究する。同時に、銀行員から鮮魚店経営に転身し、趣味の油絵、水彩画、短歌、書道で全国紙にたびたび掲載される腕前だった父から商売の基本とデザインセンスを学ぶ。
2000年東京工業大学大学院修了後、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。ソフトウェアエンジニアとして、ソフトウェア・ネットワーク・ウェブ関連の研究開発に携わる。2012年、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に異動、新規事業育成に従事。
教育分野における独自のビジネス構想を実現させるため、2015年、ソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立、代表取締役社長に就任。2022年6月より現職。ロボット・プログラミング学習キット「KOOV®」や体験型プログラミング教材「PROC™」などを展開しつつ、技術と思想面から教育分野にイノベーションを起こすべく邁進している。
ほかにもZ会奨学金選考委員、株式会社銚子電気鉄道 社外取締役などを務める。2019年に発売された『5分で思考力ドリル』(ソニー・グローバルエデュケーション著・学研)シリーズは、累計26万部発行のベストセラー。
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連載現代日本の教育における問題点とその改善策をズバリ解説