生活習慣などの改善で、認知症リスクが40%下げられる
認知症に関する研究は、日進月歩で進んでいます。2020年、世界的な医学誌である『Lancet』に「生活習慣などを改善することで認知症の発症リスクが40%下げられる」という研究が発表されました。
■認知症リスクの40%を構成する「12個の因子」
認知症には多くの原因があると考えられていますが、ここで「認知症リスク因子」として紹介されているのは、①難聴、②社会的孤立、③抑うつ、④喫煙、⑤大気汚染、⑥高血圧、⑦糖尿病、⑧肥満、⑨運動不足、⑩頭部外傷、⑪過剰飲酒、⑫教育歴(知的好奇心の低さ)の12因子です。
そして、ライフステージを若年期、中年期、高齢期の3つに分け、それぞれの時期で気をつけるべきことがわかるようになっています。
若年期(45歳未満)から生涯にわたってリスクとなり得るのは、教育歴(知的好奇心の低さ)。中年期(45~65歳)は難聴、頭部外傷、高血圧、過剰な飲酒、肥満。そして高齢期(66歳以上)は喫煙、抑うつ、社会的孤立、運動不足、大気汚染、糖尿病です。
最も数字が大きいリスクは「中年期の難聴」の8%です。これは中年期に難聴になる人が誰もいなければ、認知症になる人は全体の8%減るはずだということ。耳から得られる情報が減ると、脳が萎縮しやすくなるといわれているためです。
そのほか、喫煙(5%)、抑うつ(4%)、社会的孤立(4%)といった12のリスク因子を足していくと40%にものぼります。認知症には生活習慣が大きく関係していることもわかってきており、高血圧や糖尿病などの生活習慣病はアルツハイマー型認知症や血管性認知症の発症に大きく関わっているとする研究も多く、重要な要因のひとつと考えられています。また、生活習慣病は脳梗塞や脳出血などのリスクを高め、結果的に血管性認知症の危険性を高めます。
■12のリスク因子がなければ、認知症の発症リスクを40%下げられる
2025年に日本では認知症の人が約700万人(高齢者の5人に1人)になると予測されていますが、もし日本人すべてに12のリスク因子がなければ、認知症の発症リスクを40%下げられることになります。すると、700万人の40%、つまり280万人が認知症を発症しなくて済み、認知症になるのは高齢者の9人に1人に収まることになります。これは社会的に非常に大きなことではないでしょうか。
この40%という数字は、近年までの認知症予防研究より「確実だろう」といえるものだけを集めた数字です。今後さらなる研究の進展により、残りの60%の認知症リスクも明らかにされていくと考えられます。
たとえば「睡眠」は認知症との関係が深いとされ、良質な睡眠がとれている人はアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβというタンパク質が脳に溜まりにくいという研究結果があります。また生まれつき、アミロイドβが蓄積しやすい遺伝子の型があることもわかっています。
認知症を100%予防できる日が来るとはいえないものの、12の認知症リスク因子(40%)を優先して対策することが、科学的に理にかなった認知症予防であるということがおわかりいただけるかと思います。日常生活を変えていき、リスクを取り除くための対策を行うことで、将来、認知症になる人を4割減らせる可能性があるのです。