「思い出せない」だけか、「記憶そのものがない」のか
「もの忘れ」とは、短期的な記憶のいくつかが抜け落ちてしまうことです。記憶の「ある部分」が抜けるだけですから、記憶そのものが抜け落ちてしまう認知症とは根本的に違います。たとえば、「あの人の顔は思い出せるけど、名前が出てこない…」というのは単なるもの忘れですから大きな心配はいりません。
ここで、記憶というもののしくみを簡単に説明しましょう。
記憶には、①「記銘」②「保持」③「再生」の3つの段階があります。そして、物事を認識して記憶していく〈貯金〉は、脳の側頭葉の内側にある「海馬(かいば)」に知識として蓄積されていきます。つまり、海馬が記憶の貯金箱なのです。私たちは、毎日の暮らしの中で受け取る膨大な情報をこの貯金箱にため(記銘)、知識として植え付け(保持)、必要なときに必要な情報を取り出しながら(再生)、生活しています。
ところが老化が進んでいくと、記憶の貯金箱から的確な情報をすぐに取り出せなくなります。再生がうまくいかず、貯金箱からどの情報を引っ張り出せばよいのか分からなくなってしまうのです。これが、「思い出せない…」という健忘症の症状です。
一方、認知症の場合は、記憶の貯金箱である海馬に障害が生じてしまい、そもそも記憶を保持できません。思い出せないのではなく、「すっかり忘れている」のが認知症なのです。
「最近、もの忘れが多いな…」と感じても、安易に認知症に結びつける必要はありません。そしてもの忘れと認知症の違いは、日常生活の様々な状況で感じることができます。
老化か認知症か…日常生活で現れる「それぞれの特徴」
老化によるもの忘れは、「健忘症(けんぼうしょう)」ともいわれます。健忘症と認知症の違いは、前述したように「生活に支障が生じるようなもの忘れかどうか」という点でも判断できます。
もの忘れは加齢によって脳細胞の働きが鈍くなるものですから、誰にでも起こり得るものです。また単なるもの忘れは、ストレスや睡眠不足、過労などによっても生じ、「うっかり」「度忘れ」といった言葉でも表現されます。つまり、日常生活にそれほど大きな影響を与えるものではないのです。半面、家族など周りの人に影響をおよぼしてしまう行動が繰り返し見られるようなら、認知症を疑ってみる必要があるかもしれません。
では具体的に、普段の生活でのどのようなシチュエーションで、健忘症と認知症の違いは出てくるのでしょうか。図表3の特徴の違いを見て、あなたの「不安」がどのように該当するかを考えてみてください。