「生活に支障をきたすか、否か」の分かれ目は?
前項で老化によるもの忘れ(健忘症)の特徴を紹介したように、ある程度の年齢になると、「最近、どうも忘れっぽくなった」と感じることが増えてきます。ただ、「今日は何曜日だっけ?」「昨日の昼は何を食べたかしら?」と迷うことがあったからといって、「すぐに病院に行かなくては」とは考えないでしょう。
そして、「近頃そんなことが増えてきた…」と感じても、それが「老化によるものなのか、それとも認知症によるものか」はなかなか分かりません。きっと多くの人は、「歳は取りたくないな…」と老化のせいにして片づけてしまいます。
健忘症と認知症の違いは、前述したように、「生活に支障が生じるようなもの忘れかどうか」という点で判断できます。
たとえば、「夕食に何を食べたのかを思い出せない」のは健忘症で、食べたものを思い出せないことは、生活に支障を与えるものではありません。それが認知症になると、「食事をしたこと自体を忘れて思い出せない」ことになり、大事な食生活に影響を与えてしまいます。
ほかにも、「買い物に出かけ、何を買うのかを忘れる」のは健忘症ですが、手間は生じるものの、確認して出直せば問題ないでしょう。けれども「買い物に出かけ、途中で外出した理由を忘れる」認知症の場合はそうはいかないのです。
また、もの忘れがあっても、自覚があり続ける場合は健忘症の範囲内かもしれません。けれども、最初はもの忘れを自覚していても、次第にもの忘れをしていること自体に気づけなくなり、話の中でつじつまを合わせようとすることが出てくると心配です。
健忘症か認知症かの区別がつかない場合は、最終的には医療機関を受診しなければなりませんが、まずは2つの違いを自分で認識しておくことが大切といえるでしょう。
浦上 克哉
日本認知症予防学会 代表理事
鳥取大学医学部 教授