円安が進むなかでインバウンドが解禁されることにより、外国人観光客の消費が増え、景気回復の起爆剤になると期待する声が聞かれます。一方、鎌倉投信の代表取締役社長である鎌田恭幸氏は、長期的な円安による「日本の国力低下」に警鐘を鳴らします。この円安が日本にもたらす危機と、日本の課題についてみていきます。

長期的な円安におぼえる「危機感」

先日、オーストラリアに住む知人と会いました。久しぶりの来日だったようで、日本の食事や日用品の品質がとても高いこと、その割に、海外に比べて価格が異常に安いことを話していたのが印象的でした。海外に住む人からみる日本の商品・サービスのお得感は、円安によって一段と強まるのではないでしょうか。

 

円安が進むなかでインバウンドが解禁されると、このように外国人観光客の消費が増え、景気回復の起爆剤になると期待する声が聞かれます。たしかにここだけみれば悪いことではありませんが、正直手放しでは喜べません。

 

なぜなら円安は「円の価値が下がること」、すなわち「日本の国力が相対的に低下していること」を示しているともいえるからです。

 

行き過ぎた円安は、海外の資本家からみれば、都市部や観光地などにある優良不動産、技術力やサービス力のある企業などを買収する好機です。

 

さらに、このような所有権だけではなく、優れた日本人の労働力を安価な賃金で雇うことができるのも魅力でしょう。そうなると、食や観光のお買い得感といったものでは到底済まされない「経済安全保障上の危機感」を覚えます。

 

一方、足元の円安は内外の実質金利差が拡大したことが原因で、「国力低下とは無関係である」という意見もあります。

 

たしかに足元の金利・為替動向だけみればその通りかもしれません。しかし、この10年間、円はドルに対して最高値から50%以上も値下がりしただけではなく、“通貨の実力”を示すといわれる内外の物価格差を考慮した「実質実効為替レート」が四半世紀にわたって下落し続け、実に50年ぶりの低水準にあります。

 

この背景には、日本企業の製造拠点が海外に展開したことで輸出数量が減少したり、資源高によって輸入額が増加傾向になったりという要因があるものの、円の価値から測った日本の国力が50年前と同じという状況は、深刻に受け止めるべき問題です。

 

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