米国株の上昇の背景には、インデックス投資による大量の資金流入のほか、自社株買いの影響も考えられます。一方、金利上昇や景気悪化といった材料により、危機的状況に陥る企業が続出する可能性は否定できません。※本記事は日野秀規氏の著書『米国株なんて買うな!インデックス投資も今はやめとけ! グローバル割安株投資』(ビジネス教育出版社)を抜粋・再編集したものです。

「株主還元に熱心な企業は、株価が上がりやすい」

GAFAMブームが米国株・世界株インデックスへの資金流入を促し、それらに投じられた資金がGAFAMの高値を定着させ、さらなる資金流入を呼び、成長株に対する悪材料が一時出たとしても、インデックス投資の買いが下支えとなり、米国成長株の上昇神話が続きます。

 

そして、米国株・成長株の上昇を支えるもう1つのメカニズムが自社株買いです。

 

自社株買いとは、上場企業が株式市場で自社の株を購入することです。株主へのサービスとして株価を維持し、上昇させるために行われます。配当と合わせて「株主還元」とも言われ、近年では株主還元に熱心な企業は株価が上がりやすいということで、注目されています。

 

自社株買いがたびたび行われると、そのつど、その分だけ買いの圧力が強くなるので株価が上がりやすくなります。

 

同時に、株式市場で流通する株数が減るので、株主が保有する株式1株当たりの利益(EPS)がその分だけ大きくなります。たとえば自社株買いによって株数が半分になれば、その後に企業が上げる利益は、半分になった株を持っている株主で分け合う(形式上)ことになるわけです。つまり、その企業の株の魅力が上がるので、株価が上昇しやすくなります。

日本や欧州に比べ、自社株買いに熱心な米国企業

米国企業は、日本や欧州などの他国企業に比べて、積極的に自社株買いを行っています。金融情報会社リフィニティブの調査によると、この10年で米国企業は欧州企業のおよそ3倍~10倍、日本企業の10倍以上の金額に及ぶ自社株買いを毎年行ってきました。時価総額の違いを加味しても、その熱心さは際立っています。

 

もっとも多かった2018年には、8000億ドル(約92兆円相当、1ドル115円で計算)を超える巨額に達しました。これだけの金額が1年で株式市場に入り込めば、これに乗る投資家の資金をも引き寄せて、株価が上昇しやすくなるのもうなずけます。配当には自社株買いのように、株式の需給を直接引き締める働きはありません。投資家にとってこの差は思いのほか大きいようで、自社株買いは発表になった時点で株価が上がり、実際に行われないこともあるようです。

短期的に株価を上昇させる動機

しかし、自社株買いにはデメリットもあります。

 

第一に、自社株買いは、本来なら自社の事業拡大や効率化にあてることができる資金を、株を売った投資家に渡すことでもあります。あまりにも額の大きい自社株買いは、ビジネスを発展させて作り出す将来の利益より、自社株買いによって上がる株価の方が株主にとって利が大きいと、その企業の経営者が判断しているということになります。タバコ会社のような「枯れた産業」は別として、目に余るような場合には、経営者の資質が問われるでしょう。

 

さらに、経営者には自社株買いによって短期的に株価を上昇させる動機があるという点も見過ごせません。ストックオプションなど、株価に連動する報酬制度を取っている企業の経営者は、将来の成長より今の株価を上げた方が実入りが良くなる場合があります。経営者にけた外れの巨額報酬を支払うことが少なくない米国企業で、自社株買いが盛んな点に符合を感じてしまいます。自社株買いは、その企業の株価が高い時期に額が大きくなりがちという調査結果があります。割高な自社株買いは、資本のムダ遣いです。

株価が強く逆回転を始める可能性

米国企業の中には銀行借り入れで資金を調達してまで自社株買いを行っている企業もあります。マクドナルドやスターバックスなどはその結果、債務超過となっています。ビジネスが強固であるため危険ではないと言われますが、リスクがないわけではありません。金利が上がれば借入金利も連れて上がるので返済負担が大きくなりますし、予期せぬ経済ショックに対して脆弱になる場合もあるでしょう。

 

自社株買いというテクニカルな手法で株価が底上げされている企業は、自社株買いが行えなくなれば、株価が強く逆回転を始める可能性があります。たとえば金利上昇で自社株買いの資金を調達できなくなったり、景気悪化で自社株買いどころでなくなってしまった場合などです。

 

長期的な資産形成を行う一般的な個人投資家には、短期的な株価上昇のための自社株買いはむしろノイズでしかありません。米国株がこのような、無条件にありがたがるようなものでもない要因で上昇してきたことは、知っておいた方がよいでしょう。

 

まとめ

 

①インデックス投資の流行は、株式市場にとって継続的な株価上昇圧力となり、米国株・成長株の上昇を支えた。

 

②インデックス投資は株式市場が本来持つ、「企業に適切な株価をつける」機能を果たしておらず、株式市場のゆがみを大きくしている。いずれ清算の時が来るだろう。

 

③米国企業は日欧の企業より自社株買いに熱心であり、このために株価がかさ上げされている部分がある。

 

 

日野 秀規
個人投資ジャーナリスト
ファイナンシャルプランナー

 

 

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