解決策
法律上は介護などの苦労に報いるために「寄与分」という制度があります。けれどその「寄与分」は前述したように、①認められるためのハードルが非常に高い、②認められても寄与分の金額は小さいのが実態です。
この事例の場合も、三女は仕事をしながら介護をしていますので、「専属性」がないとされて寄与分は認められないでしょう。そのため介護をしている人は、ハッキリ言ってしまえば、寄与分をもらえることを期待して介護をするよりも、他の方法を考えたほうが得策です。
「寄与分」に頼らずに他の方法を考える場合、まず親子で話し合ってみてください。最初に両親の思いを聞いてみましょう。自宅でずっと過ごしたいのか、施設への入所も考えているのか。
自宅で過ごしたいのなら、ヘルパーの利用を考えているか(なかには他人が家に入ることを拒否する方もいますので、確認しておきましょう)。また、両親の看護・介護について三女だけが負担をしていることをどう思っているのか。
そして他の兄弟姉妹が今後も何もせずに三女1人に介護を任せるつもりなら、遺産を多めに分けることを配慮してほしいことなど、思っていることを伝えましょう。
両親と看護・介護している三女とで話し合ったら、他の兄弟姉妹の考えも聞いてください。そのうえで、「遺言」「生前贈与」「生命保険」などの対策をとることがお勧めです。
解決策① 遺言
この事例のケースでは、三女だけが両親と同居して看護と介護を引き受けています。「自宅」という分けにくい財産があることにプラスして介護の問題があります。
父の相続財産全体から考えると、「遺言」をしてもらうことがもっともいい方法です。三女の同居と介護事情もふまえた話し合いをして、その結果決めた遺産の分け方を遺言にしてもらいましょう。遺言の中で、介護を1人でしてきた三女に対し、感謝とお礼の気持ちを、遺産を多く残すことで表してもらうとよいでしょう。
解決策② 生前贈与
「生前贈与」とは、生存している個人から別の個人へ財産を無償で渡すことです。贈与する人は、誰にでも、いくらでも贈与することができます。ただし、一定額(年間110万円)を超えた場合には、贈与をしてもらった人は贈与税を支払わなくてはなりません。
今回のケースでは、まず両親と三女で生前贈与の話し合いをして、生前贈与をすることが決まったら、できれば他の姉妹にも話を通しておきましょう。生前贈与の話し合いは、病気のあとや退院したタイミングがいいでしょう。両親から「看病してくれてありがとう。これからもよろしく」という気持ちで贈与をしてもらうのがお勧めです。
解決策③ 生命保険
できるだけ早いうちに両親に「生命保険」に加入してもらい、死亡時の保険金の受取人を、介護をしている三女にしてもらいましょう。生命保険金は遺産分割の対象にならない財産で、受取人が単独で手続きができるので、確実にもらえるお金です。仮に遺産を兄弟姉妹で均等に分けることになったとしても、受取人となっている三女には生命保険金が入ります。
ただ、今回のケースでは両親とも病気を経験していますので、加入できる生命保険がないか、あるいは限られてしまう可能性があります。相続対策として生命保険を利用するなら、早くから準備することが大切です。
このように介護をしている人は、被相続人が生きている間に、対策をしておきましょう。