遺言が子どもたちの希望とかけ離れていた場合
- 被相続人‥‥‥‥父
- 法定相続人‥‥‥母、長男、次男(相談者)
- 遺産‥‥‥‥‥‥自宅、銀行預金
- 遺言‥‥‥‥‥‥「自宅の土地・建物を長男に相続させ、銀行預金は妻(母)と次男に2分の1ずつ相続させる」
- 特記‥‥‥‥‥‥法定相続人全員が遺言内容どおりに分けることを希望していない
次男からの相談内容
父の遺言が見つかりました。それは5年ほど前、父が入院する前に作成された公正証書遺言で、内容は大まかに言うと「自宅の土地・建物を長男に相続させ、銀行預金は妻(母)と次男で2分の1ずつ分ける」というものです。おそらく同居していた長男にそのまま自宅を相続させたいと思ったのだと思います。
しかし実は遺言が作成されたあとに状況が変わっていて、3年前に父母と同居していた長男夫婦は仕事の都合で県外へ引っ越し、現在は長男の代わりに私たち次男夫婦が自宅へ移り住んで母と同居して介護をしています。父は入院後に自宅に戻ることなく介護施設へ入所したため、そのような事情の変化が遺言に反映できていません。
今、父の法定相続人である母と長男と私(次男)の3人は、父の遺言が「自宅の土地・建物を次男に相続させ、銀行預金は妻と長男で2分の1ずつ分ける、という内容であればよかったのにね」と話しています。
父の遺言のとおりに遺産を分けるのではなく、自分たちが希望する分け方で分けることはできないのでしょうか。
解説
誰にどの財産をどれくらい相続させるかについては、遺言者の遺志である「遺言」が原則として最優先されます。
しかし遺言があったとしても、法定相続人全員の合意があれば、遺言内容に従わずに、遺産分割協議によって遺産を分けることができます(ただし1人でも「遺言の内容で分けよう」という人がいれば、やはり遺言が優先されます)。
そのため、今回の事例の場合は法定相続人全員が別の相続方法を望んでいるため、遺言を無視した遺産分割が可能となります。ですから、もし意にそぐわない遺言が出てきたとしても、「絶対に遺言どおりに分けなくてはいけない」とは考えないでください。
仮に遺言が「すべての財産を長女に相続させる」という内容であったとしても、他の兄弟姉妹は「納得いかない! すぐに遺留分侵害額請求をする!」と弁護士に相談に行く前に、まずは法定相続人全員で話し合うことから始めていただきたいのです。
その話し合いのときに、長女が「自分1人だけで相続する気はない。弟や妹たちにも分けたい」ということなら、遺言はなかったこととして、遺産分割協議に切り変えることができます。わざわざ遺留分侵害額請求をして家庭裁判所で数年もかけて争う必要はありません。
ここで気をつけなければならないのは、いったん遺言のとおりに長女がすべてを相続してから弟や妹に分けないほうがいいことです。
遺言のとおりにいったんすべてを長女が相続した場合は、その時点で財産は長女のものになります。その後に弟や妹たちに財産を分け与えると、それは「贈与」となり贈与税の課税対象となってしまいます。
一方、相続人全員で遺産分割協議をして「遺言とは違う分け方で相続しよう」と合意すれば、「贈与」ではなく「相続」ですので、高い贈与税が課されることはありません。