(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の方が所有する資産について、家族(主に子どもたち)が資産を引き受け管理する「家族信託」の利用が増えています。家族信託で管理される資産は、不動産やお金が多いようですが、社長が持つ自社株式の管理と承継にも信託は有効です。しかし、自社株式の信託の利用例はまだ少ないようです。ここでは、信託の機能とその活用方法を説明します。

分ける・継ぐ・まとめる…信託の3つの機能を最大活用

信託することで、3つの機能を活用することができます。

 

3つとは、「分ける」「継ぐ」「まとめる」の3つの機能です。

 

この3つの機能は、社長が持つ自社株式についても活用することができます。信託を利用すると、生前贈与や遺言で自社株式を渡すこととは異なる効果が得られます。

 

◆信託の「分ける」機能

信託により、資産の所有権の権利を分けることができると先ほど説明しました。資産の「管理・処分する権利」と資産の「使用・収益を得る権利」、この2つの権利を分け、受託者が「管理・処分する権」を、受益者が「使用・収益を得る権利」を持ちます。

 

誰が受託者を務めるか、誰が受益者になるか、その人を組み替えることで、生前贈与や遺言ではなし得ないバリエーションを作ることができます。

 

★活用例①

 

受託者を資産所有者の子に、受益者を委託者(資産を所有していてその資産を信託する人)とすれば、管理・処分する権利を子に与えつつ、引き続き信託した資産の利益を自身が得られます。

 

管理・処分させるためにその資産を生前贈与すれば、贈与した資産の使用・収益を得る権利も当然に受贈者にわたってしまいます(受贈者には贈与税が課税される)。

 

信託では、所有権を受託者に移転しても、委託者が受益者にもなり使用・収益を得る権利を持てば、受託者にも受益者にも贈与税は課税されません。

 

★活用例②

 

信託では、資産を所有しその資産を信託する委託者が、受託者を務めることもできます。この信託は「自己信託」といい、信託ならではの特徴的な資産の管理・処分方法です。

 

自己信託を利用して、受託者を委託者が務め、受益者を委託者の子などの家族とします。子などの家族が、信託財産の使用・収益を得る権利を持ちます。しかし子などの家族は、信託財産の管理・処分する権利はなく、引き続き資産を所有していた人(委託者であり受託者を務める人)が信託財産を管理・処分していきます。

 

信託財産を自社株式とした場合、自社株式の議決権は受託者が行使します。自己信託では、自社株式を所有していた委託者が受託者を務めるため、議決権行使者は、信託をしても変わりません。一方、配当受領者は、信託財産の使用・収益を得る権利を持つ受益者のため、受益者の子などの家族が得ます。

 

生前贈与で子などの家族に自社株式を贈与すれば、贈与後の議決権行使者は、受贈者となります。一方、信託を利用することで、管理・処分をまだ任せられないものの収益は与えたいと思っているような資産について、信託の「分ける」機能を使うことで、資産を所有していた者を受託者として、資産の管理・処分する権利を留保する仕組みができます。

 

この自己信託の活用例では、信託をしたときに委託者と受益者が異なるため、受益者に自社株式を贈与したときの同じ贈与税が課税されます。

 

◆信託の「継ぐ」機能

ほとんどの信託は、委託者と受託者の両者で信託契約することにより行っています。信託契約には、信託の終了事由を規定しています。その終了事由が生じると、信託は終了します。

 

信託が終了すると、受託者は信託財産について清算の手続きを行います。清算手続きが終了すると、そのときの残余の信託財産を、信託契約に規定された人に戻します。

 

残余の信託財産が戻される人を、帰属権利者又は残余財産受益者(以下、帰属権利者等)といいます。信託することで、信託財産は受託者に移転し、信託が終了すると、信託財産は帰属権利者等に戻されます。

 

★活用例③

 

信託をする人(委託者)と信託財産の利益を得る権利をもつ人(受益者)を同じとする信託で、受託者が信託財産を管理・処分して、受益者に信託財産の利益を渡していきます。

 

受益者(委託者でもある)が亡くなることを信託の終了事由にします。

 

受益者が亡くなると、残余の信託財産が戻される人(帰属権利者等)を、受益者の特定の子(例えば長男)とします。

 

この信託では、信託した資産(信託財産)について、受益者でもある委託者が亡くなったときの承継先を指定しています。遺言と同じ機能です。信託財産を特定の人に「継ぐ」機能です。

 

委託者を受益者として開始し、その後、受益者が亡くなったときに信託は終了せずに続き、受益者を次の人にする信託とすることもできます。

 

★活用例④

 

委託者(夫)が子を受託者とし、受益者を委託者自身とする信託とします。子に信託財産の管理を任せ、委託者自身は受益者となり引き続き信託した資産の利益を得ていきます。その後、受益者が亡くなったときも信託は終了せず、次の受益者を当初の受益者の妻とします。妻は、子に信託財産の管理を任せて、信託財産の利益を得ていくことができます。

 

この仕組みの信託は、受益者が亡くなることで次の受益者としてされている人が信託財産の利益を得るという受益者が連続する信託(受益者連続型信託といわれています)です。

 

妻に信託財産の利益を「継ぐ」ことができる信託です。

 

妻は夫が亡くなり受益者になることで、相続税が課税されます。夫の相続が発生したときの信託財産額が相続税の課税対象となります。

 

◆信託の「まとめる」機能

複数の人が持っている資産を受託者にまとめてその資産の管理を任せることもできます。

 

少数株主が持っている株式を受託者にまとめることや、共有している不動産を共有者それぞれが受託者に信託し、不動産の所有者を受託者1人にするという活用方法もあります。

 

資産の所有者がそれぞれ受託者と信託契約を締結することが必要ですが、複数の所有者や共有者がそれぞれ資産を管理することに比べて、資産の管理を効率化することもできます。

 

 

石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役

 

 

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