(※写真はイメージです/PIXTA)

「まだ大丈夫と思いたい。でも、知っておけば準備できる。」高齢者認知症外来・訪問診療を長年行ってきた専門医・近藤靖子氏は、書籍『認知症のリアル 時をかけるおばあさんたち』のなかで「認知症患者の物忘れ」について解説しています。

認知症が進行しても「覚えていられること」

アルツハイマー型認知症では、脳の海馬という部分が障害されるので、海馬の担当である、「新しいものごとを覚える」ことや「最近の記憶を蓄えておく」ことが苦手になります。

 

昔の記憶はそれ以外の脳の部分に蓄えられており、比較的良く覚えています。

 

というよりも、昔の記憶をその都度取り出し、何度も何度も反芻(はんすう)しているので、より強固で生き生きとした記憶として心に刻まれているようです。まるで昔の記憶の中で生活しているみたいなものかしら、と想像してしまいます。

 

そうすると、前にテレビや映画にもなった、『時をかける少女』のおばあさん編(?)などと思ったりします。つまり、『時をかけるおばあさんたち』でしょうか。

 

では、おじいさんはどうでしょうか? 昔の出来事のおしゃべりをしてくれるのは圧倒的におばあさんが多く、おじいさんは返事も最小限程度だったり、頷いたりする程度のことが多いです。

 

従って、どんな記憶の世界を持っているのか、こちらからは伺いにくいです。

 

ただ、少数ながらおじいさんにもおしゃべり好きの方はいます。貿易会社の社長を長年していたおじいさんは、各国を巡り5ヵ国語を話し、とても話好きで話をしだすと止まらない、という方でした。

 

インドやインドネシア、ベトナムへも行ったそうですが、次第に認知症が進行してくると、具体的な国名は出にくくなってきました。でも、とっても社交的で、機嫌よく挨拶をしてくれます。

 

2週間に1回診察があるのですが、「やあ1年ぶりだね」とか「3年半ぶりだね」とか適当ですが、久々感が出ていました。施設の職員の話では、その方はエレベーターに乗ろうといつも扉が開くのを横で待っているそうです。理由は、エレベーターを見ると会社のエレベーターを思い出し、仕事で別の階に移動するところと思っているのであろうとのことでした。

 

認知症が進行してくると、新しい出来事は覚えにくくなりますが、出来事によっては、結構覚えていることもあります。それは、嫌な出来事や不満、恨み言などです。

 

ある時から診察のたびに、「食事を載せるカートに足を踏まれて、歩けなくなった」と訴える男性がいました。ほかのことは忘れているようですが、踏まれたことだけは、何度も何度も数ヵ月間診察のたびに訴えていました。

 

こういう嫌な出来事は、その時感情の動きが大きく、情動と関連が深い扁桃体(へんとうたい)という脳の部分が活性化され、隣接している海馬を刺激し、記憶に刻まれやすいそうです。

次ページ「若者の記憶」と「認知症患者の記憶」仕組みの違い

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症のリアル 時をかけるおばあさんたち』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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