土地の積極的な有効活用が資産防衛に
不動産を活用して相続税対策を試みるのであれば、昔ながらの地主的なスタンスから脱却して、経営者としての視点からマネジメント(経営管理)を行っていく心構えが求められることになります。
書籍『地主の相続財産は法人化で残す』の第1章で説明していますが、代々地主の家で生まれ育ってきたような人の中には、「相続=祖父母や親が守ってきた土地を受け継ぎ守っていくこと」という観念を持っている人が少なくありません。
もちろん、先祖代々の土地を守るという考えそのものは尊重されるべきことでしょう。しかし、文字通りただ「守る」ということにこだわり続けてしまうと、守れるものも守れなくなるおそれがあります。
そもそも、「守る」ということは「何もせずにいること」ではないはずです。攻撃は最大の防御という言葉もあるように、失わないように、失わないようにと後生大事にしているだけではなく、受け継いだ土地を積極的に有効活用していくことが結果的に資産を守ることにつながるかもしれないのです。
マネジメントの意識を持てば、相続税対策は、より総合的、戦略的に進めていくことが可能となるでしょう。それは結果として、大切な家族により多くの幸せをもたらすことになるはずです。
経営者の視点ということは、例えば「今ある土地や不動産を地域社会のニーズに応じて運用し、所得を拡大して後継者に引き継いでいく」などのように目標をはっきりさせること、そして、それらの目的を遂行するために役員となった親族等が責任をもって対策にあたるということが挙げられます。
まずは個人資産の「棚卸し」を
マネジメントの視点から相続税対策を進めるうえで必要なのは「株価対策」と法人以外の個人資産の「棚卸し」をし、個人保有資産の現状分析を行うことです。
分析対象となる具体的な資産としては、現金・預貯金、土地・建物などの不動産、有価証券、家庭用財産、生命保険金等の財産が挙げられるでしょう。
これらの財産がどれだけあるのかを確認したら、続いて、大まかで構いませんから、相続税の試算を行ってみましょう。その結果、相続税が全くかからないことが分かれば、納税資金を用意する必要がなくなる、すなわち納税資金対策を行う必要がなくなるかもしれません。
一方、相続税がかかることが明らかになれば、納税資金の準備や相続税の負担を減らすことを目的とした対策方法を具体的に判断することが求められることになります。
仮に、現預金だけで納税資金を確保できるとしても、そのすべてを相続税に充ててしまってよいのかは慎重に検討する必要があります。相続人の中には生活力の乏しい人もいるでしょう。現預金を相続税の支払いのために使い果たしてしまうことには、不安があるはずです。ほかに納税資金を確保する方法はないか、相続税をより減らせる方法はないか、多面的にあらゆる可能性を考えてみましょう。
これらの対策を検討する過程では、家族全員が胸襟を開いて率直に意見をぶつけ合うことが望ましいといえます。少数の者だけで独りよがりに対策を進めてしまうと、ほかの家族には不信や不安が生まれ、後々、相続が円滑に進まなくなる原因となり、相続税の申告・納付に悪影響を及ぼすことになるかもしれません。
なお、株価対策は設立した法人の中で行うことですが、個人資産の相続対策を同時に行わないと効果が発揮できないので注意が必要です。