世界の力点は再び「工業技術」へ…日本の好機となるか
「見える課題」への回帰…国家最大の危機に瀕する日本とその活路
今後を考えると、
①環境保護の意識・気候変動対策によって、投入・生産・消費の社会的・経済的コストが高まり、
②世界の分断によって食糧・エネルギーの供給も分断され、
③高齢化に伴って労働供給が減少する
ことで、世界の生産技術の力点は、1990年代以降の「情報技術」から、再び「工業技術」に置かれる可能性があるでしょう。
言い換えれば、「物質的な平和」は終わり、我々は再び、「モノに関する課題」に対処することになるでしょう。たとえば、気候変動対策に伴い「モノを以前よりも少ない材料やエネルギー、人手で生産すること」もそうですし、東西の分断により「食糧やエネルギーの供給が不足する」こともそうです。
いわば世界は再び、「見える課題」の解決を求められています。資本が投下されるテーマや分野が変わり、成長企業の陣容も変わる可能性があります。
こうした変化は、1970~1980年代と同様、日本の製造業や彼らが持つ技術にとっての好機である可能性があります。
もしかしたら、日本の企業は、インターネットやプラットフォームなど「ソフトで、見えない課題」を解決することや、あるいは「課題そのものを見つけること」は上手ではないのかもしれません。
他方で、「ハードで、見える課題」を解決するのは得意分野であるように思えます。1960年代の公害問題を抱えて迎えた70年代のニクソン・ショック(金・ドルの兌換停止)やオイルショックは日本にとって「戦後最大の危機」であり、日本はその危機を省エネや省力化、代替エネルギーなどの工業技術で乗り越えました。それは、80年代の飛躍につながりました。
そして、今日、食糧やエネルギーの調達、高齢化、地政学リスク、そして「闘う政治家」の喪失を考えると、日本は「国家最大の危機」を迎えているといっても過言ではありません。
危機こそが、イノベーションにとっての好機です。
ただし、企業や社会のメンバーひとりひとりが「危機を認識し、これを共有できるかどうか」が、我々自身の現在と未来にとって最も重要なカギとなるでしょう。
重見 吉徳
フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
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