中国、経済指標の落ち込みで露見した「ゼロコロナ政策」の影響 (※写真はイメージです/PIXTA)

2022年3月初旬から4月中旬、中国では31省市区のうち西蔵を除く全ての省市区で新型コロナの感染が確認された。コロナ再拡大と、それに伴って採られた厳しい「ゼロコロナ政策」は、経済に大きな打撃を与えたはずだが、政府はプラス成長を実現したと強調するなど、一部の数字には政治的操作が疑われる部分もある。3~6月初旬にかけ、中国語ネットワークで観察された様々な動きや情報を通じ、中国における本問題の政治・経済・社会面の意味合いを複数回に分けて探る。第2回の今回は、発表された統計数値から中国経済の実情を分析する。

李克強首相「できることはすべてやれ(能出尽出)」

李克強首相率いる国務院(政府に相当)は4月、タイムリーに景気刺激策を講じるとし、特に実体経済を支援する金融政策の必要性に言及。これを受け、人民銀行が預金準備率を0.25%引き下げた他、人民銀行と外貨管理局が共同で、感染で影響を受けた企業や個人への金融支援を強化する23項目にわたる通知を発表。

 

さらに国務院は「感染増加の影響に対応し、消費の回復発展を促進すること」などの5分野、20項目にわたる包括的消費促進意見を発表。5月常務会議は経済が軌道から脱線している(脱軌)と異例の厳しい認識を示し、今年予定されている税還付や納税猶予(降税減費)2.5兆元に1400億元上乗せするなど、財政、金融、サプライチェーンなど6分野、33項目にわたる経済安定化措置を発表。

 

さらに5月下旬、李氏は地方幹部を中心に10万人超が参加したかつてない大規模のTV電話会議を主催し、事実上、初めて年成長率目標5.5%の達成が難しくなっていることを認め、安定成長確保のため「できることはすべてやれ(能出尽出)」と指示。国務院はまた国家開発銀行など政策性銀行に対し、インフラプロジェクト支援のため8000億元の融資枠設定を指示。ほぼ同時に人民銀行も主要24行を招集し、融資を積極的に増やすよう指示した。地方幹部の間では、10万人会議で李氏が「中央財政は厳しく、地方財政を助ける余裕はない」としたことは、清零か景気刺激かの選択を迫ったものとの声がある。

 

李氏は10万人TV会議について、事前に党常務委で開催を提案し他の常務委員の賛成を取り付け、習氏は黙認したとされるが、地方党幹部にとっては清零政策実施が最重要で、同会議には出席しなかったとの情報がある。また党宣伝部の指導・管理下にある経済日報は同日深夜に突然、「中国は世界第2の経済体でそのファンダメンタルは強いという大局を忘れるな」「中国経済が荒波の中を進んでいくにあたり、習総書記の指導が最大の力」など、経済が危ういとした李氏発言を否定するかのような論評を掲載(その後、新華社や人民日報もこれを転載)。

 

なお上海は同会議後の5月末、仕事と生産の再開(復工復産)、消費回復、外資企業の経営・貿易安定化など8分野、50項目にわたる経済回復措置、北京も同様に6月初、6分野45項目の措置を発表した。

立て続けに導入する景気刺激策も、効果は限定的か

6月末国務院常務会議は、国家開発銀行を中心に政策性銀行の金融債発行を通じ、3000億元のインフラ投資援助を行うことを発表。金融債発行はすでに6月5800億元、前月比33%増と増加。7月も上旬までに1500億元が発行され、発行予定が明らかになっているものを含めると、すでに2000億元を超える見込み(2022年7月15日付新浪財経)。鉄道、道路、港湾など運輸関連インフラ投資に限定しているが、資金不足になっている約1.2兆元規模のインフラ投資を動かすことになるとみられている。

 

地方政府のインフラ投資財源となる専項債券発行は年間枠3.65兆元のうち、上半期ですでに3.45兆元が発行された。例年発行が下半期に集中することを考えると、異例の早いスピードで、下期には2023年発行枠(2023年全人代で承認されるもの)の前倒し使用、さらには2年ぶりに特別国債の発行も検討されているもようだ(前回は2020年コロナ対応で1兆元発行)。

 

他方、党政治局は五一假期前の4月末に会議を開催し、当面の経済情勢と政策を議論。「感染とウクライナ情勢でリスクと挑戦が増大」「経済環境の複雑性、深刻さ、不確実性が高まっている」とやはり厳しい認識を示し、各幹部は様々なブラックスワン(黒天鵝)とグレーリノ(灰犀牛)の発生を全力で防止するよう指示。

 

同会議はまたこれまでは後ろの方で触れていた感染問題を冒頭で言及し、その分量も増えた。特に感染拡大で市況悪化が著しい不動産市場に関し(4月、70主要都市のうち47の新築住宅価格が前月比マイナス)、「住宅は住むもので投機するものではない(房住不炒)」との方針は繰り返しつつも、これまでの「各都市の属性に基づいた施策(因城施策)」という表現を、「各地がそれぞれの実際の状況から出発して不動産政策を改善していく(完善)ことを支持する」と踏み込んで説明(人民銀行は5月、この表現を基に1軒目の住宅ローン金利下限を5年物貸出基準金利LPRからLPRマイナス0.2%に引き下げた後、5年物LPRを引き下げ)。

 

ただ、党、国務院いずれからも動態清零政策変更のシグナルはなく、これら刺激策の効果は限定的との声が多い。

 

2020年の武漢封城の時も経済への打撃は大きかったが、感染が収まれば経済は回復・反転するというのが市場の共通認識だった。しかし今回は、動態清零政策がいつまで続くのか見通し難く、仮に解除されてもいつまた厳しくなるか予測がつかないため、企業の合理的生産計画や人々の将来期待が著しくかく乱されているとの悲観的見方が強い。

 

次回は、ゼロコロナ政策に対する人々の不満や、批判を封じ込めようとする当局の動きを探る。

 

金森 俊樹

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    1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。2015〜21年、香港の日本ウェルス(NWB)独立取締役。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。

    著者紹介

    連載ゼロコロナで見えた、中国の「政治・経済・社会」の一端

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