新型コロナ感染再拡大で当局の対応は?
中国では2022年3月初から新型コロナ感染が再び急増し、各地で厳格なゼロコロナ(清零)政策が復活した。特に上海の動向は、進出外国企業や世界全体のサプライチェーンにも影響する話で各国メディアも連日報道。日系進出企業の間でも部品調達が滞るなど、一昨年の武漢封鎖の時以上に経営への影響は深刻という声が聞こえた。
上海から脱出するという意味の「潤学」(潤の中国語発音表記はrun)が流行し、ネットの検索ワードで「カナダ移民条件」が急増。5月に移民管理局が「不必要な出国を厳禁」とする方針を出し、潤学は大きな打撃を受けるとの不安が高まった。
4月末~5月初の労働節5連休期間(五一假期)直前、上海は感染状況の深刻な順に地区を「封控区」「管控区」「防範区」に分類し、市人口の約6割を占める「防範区」から徐々に制限を緩和し始め、6月1日、「全市で正常な生産、生活を回復する」と宣言。
ただ封鎖解除(解封)とは言っておらず、メディアに対してもそうした用語を使用しないよう指示。あくまで「一時停止キーを押したもの(按暫停鍵)」と受け止められており、当局が言う「社会面清零」、つまり市中感染者ゼロが長く続かず、再び規制が強化されるのではないかとの不安がくすぶっている。
前日には、清零政策に不満を持つ上海の起業家や投資家が「清零には何もしない(躺平〈タンピン〉清零)、仕事は再開するが生産再開はしない(復工不復産)、秋に開催予定の第20回党大会(20大)を見守る(静観)」とし、20大で経済が政治の犠牲になっている状況を改善する政治改革をすべきとした公開状が出回った。「躺平」は「寝そべって何もしない」ことを意味する近年の中国ネット流行語だが、中国当局はこれに批判的だ。
他方、北京でも4月下旬以降、感染増加を受け行動制限、PCR検査が常態化。6月初時点、感染減少が見られる地区で行動制限が緩和され始めたが、状況はなお不透明。特に5月25日から3週間、天安門参観の当日予約ができなくなり、この間に6月4日(1989年同日に天安門事件が発生。「六四」と呼ばれる微妙な日)が入ることから、複雑な反応が起きた。
習近平氏が「清零政策」に固執する理由
中国では3月初~4月中旬、31省市区のうち西蔵を除く全ての省市区で感染が確認され、経済規模100大都市のうち87が何らかの制限措置、上海も含め少なくとも28が「全域静態管理」を導入(4月20日付地元経済誌21世紀経済網他)。中国当局は厳密には都市封鎖(封城)ではなく、「全域静態管理」という用語を使用している。習近平国家主席が3月政治局常務委員会で「最小の代償で最大の感染防止効果を図ること」と指示した頃から、「ダイナミックゼロコロナ(動態清零)」という用語も使用し始めた。
国家衛生健康委の専門家は、「全域での封鎖管理をできるだけ避けることが動態清零の目的の1つ」と説明しているが、具体的政策面での変化は判然としない。そもそも習氏が清零政策に固執するのはなぜか。反習筋から、西側と異なる価値観を持つ中国の指導者にとって国民の幸福はどうでもよく、自らの権力を誇示することが最大の関心事であること、とりわけ上海については、「党は上海を必要としているが、上海は党を必要としていない」という上海人の優越感を砕き、上海が「天龍国(台湾で経済的に豊かだという優越感を示す表現として使われている)」になることを阻止するためなどの見方がある。
2021年、第3の歴史決議の採択で自らを毛沢東に並ぶ歴史的指導者に位置付けようとしたかに見える習氏だけに(関連記事『中国・第3の「歴史決議」採択に漂う、習近平続投への「微妙なニュアンス」』参照)、まったくの的外れではないかもしれない。
これら見方の当否は別にして、慢性的な医療資源不足で感染者が急増すると医療体制が対応できなくなることへの不安が強いことは間違いない(世界集中治療医学会議によると、コロナ感染前の10万人当たりICU病床数は独24.6床、加13.5床に対し、中国5床。日本は厚生労働省が国際比較のため調整した数値で13.5床)。
5月政治局常務委は、感染防止対策は「水の流れに逆らって舟を進める、進まなければ後退するだけ(逆水行舟、不進則退)」「今が決定的な鍵となる(関鍵)時期」「清零を歪曲・疑問視・否定する一切の言動と断固闘う」と動態清零堅持を繰り返し、その根拠として、人口大国で老齢人口が多いこと、地区間の発展水準不均衡、医療資源総量不足から、感染防止対策を緩めると大規模の感染拡大が起り、経済社会と人民の命に深刻な影響が及ぶことを挙げている。
人民日報系の官製メディア環球網は5月1日、「“躺平”に出口はなく、“動態清零”が正しい道」と題する論評を掲載。「感染防止で躺平の国があるが、これは感染防止をする意志がないためではなく、その能力がないため。こうした西側国家には強力な核心となる指導者がおらず、人々に一致協力して困難を克服する志(衆志成城)がないことから、理想的な感染防止対策を見つけられず、躺平を選択している。しかしそれは感染がないことを偽装し、強者だけが生き残ることを意味する」として、動態清零政策を正当化。環球網はその後も動態清零を支持する論評を連日のように掲載。感染防止対策は各国の実情を踏まえ実施すべきもので「標準型」は存在しないなどとして欧米諸国を批判。新華社や中央電視台(CCTV)など、多くの官製メディアが同様の主張を展開している(図表1~図表3)。