中国政府は、2022年3月初旬から4月中旬に発生したコロナ再拡大に対処するため、厳しい「ゼロコロナ政策」を実施したが、経済に大きな影響が及び、また人々の間で不満が渦巻く事態となった。指導部は責任を擦りあいながらも、同時に「20大」に向けた策略を展開するという、複雑な動きを見せている。3~6月初旬にかけ、中国語ネットワークで観察された様々な動きや情報を通じ、中国における本問題の政治・経済・社会面の意味合いを複数回に分けて探る。最終回の今回は、清零政策を巡る指導部内の様々な動きを読み解いていく。

上海書記と感染防止担当副首相の「責任転嫁」

上海市党委員会書記のポストは以前から、中南海(北京中心部にあり、中国政治中枢の代名詞)への跳躍台と目されている。習近平氏、江沢民氏、朱鎔基氏はみな同ポストを経験している。

 

現任の李強氏は年齢(20大時点63歳)、経歴(2002~07年、習氏が浙江省党書記の時に秘書長などを務めた習氏側近の1人)から、本年秋の20大で常務委員入りした後、李克強首相の跡を継ぐ有力候補の1人とされる。他方、李克強氏は自らの後任として胡春華副首相や汪洋常務委員を考えているとされるだけに、上海封城が李強氏の今後の処遇に何らかの影響を及ぼすことになるのか関心が高い。

 

李強氏の大番頭(大管家)である上海市秘書長は記者会見で、「上海が直面している感染力の強いオミクロン株に対する認識が不足していた。そのため、感染が急拡大する中で準備が十分でなかった」と謝罪。事実上、李氏が謝罪したもので極めて異例と受け止められた。いったんこうした謝罪をすると、政敵がそれを利用する。

 

2年前の武漢封城後まもなく、湖北省と武漢市の党委書記は相次いで退任している。ネット上では4月、1988年に上海で肝炎が大流行した際の朱鎔基市党委副書記・市長(当時)の対応を評価し懐かしむ写真や文章が出回った。直接的には今回の封城と関連付けられてはいないが、間接的に李強氏への強い不満を示したものであることは明らかだ。

 

李強氏と、本問題処理のため中央から派遣された孫春蘭副首相はCCTVのインタビューで、「総書記の重要指示を貫徹し、」「総書記の要請に従い、」「習氏が自ら(親自)指揮」をことさら強調。状況が改善しない中、自らに責任はないことを強調し、婉曲的に習氏に「甩(シュワイ)鍋」、鍋を投げる→責任を転嫁したと受け止められた。

 

こうしたこともあり、今回責任転嫁が目立つとの声が多い。「上からの命令でやっているだけ(奉命行事)」という言い訳、当局は敲鍋運動が「国外勢力」の陰謀だと主張、北京市が感染対策で導入したアプリ「北京健康宝」が国外からサイバー攻撃を受けたと根拠のないニュースを流しているなどだ。

 

さらに中国科学院と北京大学がこのタイミングで、「飢餓は健康長寿によい」とする共同研究報告を出したことは「嘲笑物」との声も上がった。

 

「国外勢力」は一種の「政治亡霊」用語で、中国政治が閉塞状態になるとこれが言われ始めるとの指摘がある。

 

封城後、李強氏はおそらく「市民に寄り添う」姿勢を示すため、市内各地区を視察したが、官側が事前に準備したであろう住民は姿を見せず、怨嗟の声が聞こえる動画が出回り逆効果だったとの声が聞こえる。

 

一方、孫氏は老朽地区の感染状況を視察したと報道されたが、地区住民が写した写真は同氏が地区近くにある豫園集団本社ビル屋上で担当者から簡単な報告を受けただけだったことを暴露し「露餡」、餃子の餡がはみ出す→嘘がばれたと批判された。孫氏は上海入り後、現地の防疫対策を否定し、地元幹部はこれに不満を持ったとされる。

 

そのため、そうした幹部が「住民から罵声を浴びる恐れがある」「感染の恐れがある」ことを理由に孫氏に視察を止めさせたうえで写真を暴露し、孫氏の評判を貶めようと仕組んだとの憶測もある。

 

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