普通預金にしておくより、よっぽどマシではあるが…
長引く不況、少子高齢化、そして老後資金2,000万円問題…。すでに政府は国民の老後について公的年金だけでは賄えないと判断しており、政府自体も「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」と株式投資を推奨している。国民に自助努力を促すべく、つみたてNISAやiDeCoなど、資産形成のための優遇措置をいくつも取り揃えているのはご存じの通りである。
実際に株式投資がブームとなり、サラリーマン投資家が一気に増加したのは比較的最近だ。バブル時代はまだ、株式投資を「ギャンブル的なもの」として考え、敬遠する人も少なくなかった。
しかし近年、政府の啓蒙の甲斐あって投資に対するイメージは改善し、自身の老後資産形成の一助として株式投資に取り組みたいと考える人も増えた。実際、株式の長期投資の場合は「期待値がプラス(確率的には儲かると予想できる)」であり、慎重に投資すれば、ゼロ金利で預金しておくよりはよっぽどマシなはずなのである。
自分はどこまで「暴落リスク」を許容できるか
定年退職が差し迫ってきた50代、そして年金生活がはじまる60代前半の人たちのなかにも、資産形成の一助として株式投資に取り組んでいる人が一定数以上いるはずだ。そしてこの方々は数十年前の定年退職者とは異なり、金融リテラシーも格段に上がっている。ある意味、政府の目論見通り、自身でコツコツと資産形成を行って自助努力で人生終盤を過ごしてくれる層だといえる。
しかし、である。「積立投資」も投資であり、良くも悪くも、マーケットによって状況は変化する。「高いときに少し買い、安いときにたくさん買う」というベーシックな手法は、多くの専門家が推奨しているが、もしガタガタと値を下げている現状を目の当たりにすれば、冷静でいられる人ばかりではないだろう。また、そもそも冒険心のある人なら、少し投資に慣れたタイミングで、ハイリスクな商品に手を出してしまうかもしれない。
去年までは堅調だったマーケットだが、今年に入ってから大きく下げた。
「狼狽売りしてしまう人は少なくないですよ。ただ、一定以上の年齢になってくると、失ったものを取り戻す時間が残されていない。問題はそこなのです」
あるベテラン金融ジャーナリストはいう。
「投資においてある程度の冒険ができ、また、万一の際に取り戻す時間があるのは30代ぐらいまで。それ以降の年齢になると、やはり時間が十分に残されているとはいえません。〈人生100年〉といっても、それはあくまでもたとえなわけで、ほとんどの人はそこまで生きない。70代になって老後資金を吹き飛ばしてしまえば、マーケットの回復を待って失った分を取り戻すまで、果たして寿命がもつのかという話です」
自分はどこまで「暴落リスク」を許容できるか。また、「暴落に耐える胆力」があるか。それについてもよく考える必要がある。
「一例ですが、NASDAQ100指数のレバレッジ型の投資信託、略して〈レバナス〉が、去年は非常に好成績でした。しかし、2022年5月にNASDAQ100指数が月初から最大約1,300ポイントも下落。大損した人が続出したのです」
金融ジャーナリストは言葉を続ける。
「〈積立投資は、安いときにたくさん買うから大丈夫〉なんて、楽観的に思っていられるでしょうか。大切な資金が、すさまじいスピードで目減りする現実を受け止められる人ばかりではないでしょう」
下落が続けば、「このまま戻らないのでは?」「資産が半分以下になるのでは?」と不安に駆られ、損失覚悟で売却することになりかねない。しかし、その先に待っているのは厳しい現実と激しい後悔だ。
その意味では、非常に地味な話だが、中高年の資産運用は、決して冒険することなく、無理のない範囲でコツコツとやっていくしかないのである。
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