精度・耐久性において「世界一」の品質
タツノは、ガソリン計量機をはじめとした石油関連機器の製造販売から修理・維持管理、ガソリンスタンドや産業用油槽所の設計・施工、さらには危険物施設の土壌環境保全事業などを手掛ける企業である。
ガソリンなどの燃料は「量り売り」が基本だ。ガソリンスタンドの地下には巨大タンクが埋設されており、給油の際には地下タンクから計量機に内蔵したポンプで汲み上げる。しかし、給油量を量るメーター内のシリンダーなど金属部品が劣化すると、正確な給油ができなくなり、販売者は顧客の信頼を損なうことになる。当然といえば当然だが、量り売りという業態において「正確に量れるかどうか」、および「正確に量る性能が長く続くかどうか」は死活問題なのだ。
ところで、先ほどから登場している「計量機」という言葉に違和感を抱いた人は多いかもしれない。
ガソリンスタンドで給油する機器は、たいてい「給油機」と呼ばれるが、それをタツノでは計量機と呼んでいる。なぜなら先に述べたとおり、給油においては計量の精度が何より重要だからだ。「正確に量れる計器を作ること」こそがタツノの企業アイデンティティの土台であり、また絶対的な自信を持っている点なのである。
現在、タツノのガソリン計量機の国内シェアは65%、2020年のセルフサービスステーションに限定すれば80%にも達しており、日本一の計量機メーカーであることは間違いない。世界シェアでは第3位を誇り、80以上の国と地域で使われている。
これほどの高シェアを獲得・維持してきた最大の理由は、計量機の精度および耐久性において「世界一」と讃えられてきた品質にあるのだ。
計量法では「±0.5%以内」の計量誤差が認められており、7年に1度の計量検定が義務付けられている。仮にガソリンスタンドが月に100キロリットルのガソリンを販売するとしたら、7年間に生じうる誤差は、法定誤差±0.5%で±42キロリットル、現在の相場(約150円/リットル)に換算すると±630万円にもなる。
一方、タツノのガソリン計量機の誤差は±0.2%ときわめて低い。同様に計算すると、7年間で生じうる誤差は±16.8キロリットル、価格にして±252万円、法定誤差の40%にまでに抑えられるのだ。このデータ1つだけでも、タツノのガソリン計量機の精度、耐久性の高さを物語って余りある。
戦後、日本の製造業が急速に発展するにつれて、「メイド・イン・ジャパン」は高品質の代名詞となった。よく引き合いに出されるのは「家電製品」や「自動車」だが、ここにもう1つ、「ガソリン計量機」という誇れるメイド・イン・ジャパンがあったことを知る人は、あまり多くはないのではないか。
タツノの歴史は、「正確に量れること」「その性能が長続きすること」という量り売りの基本を真面目に守り通すことで、顧客からの信頼を積み上げてきた歴史といえる。
その発祥は、1911年(明治44)、タツノの創業者である龍野右忠(うちゅう)が、東京市芝区松本町(現在の港区芝)に創立した龍野製作所だ。龍野製作所はガスメーターおよび付属品の製造工場だったが、大正に入り、社会のモータリゼーションが一気に進む兆しが見えると、右忠はいち早く自動車の燃料、ガソリンの計量への転換を図った。
最初に着手したのは、ガソリン計量機をアメリカから輸入して販売する事業だった。その後、1919年(大正8)にはガソリン計量機の自社製造に成功。日本で最初の「国産ガソリン計量機」の誕生である。
ガスメーターからガソリン計量機へと軸足を移すことで「量るもの」は変わったとはいえ、タツノは創立当初から「計量」を生業としてきた。
「私たちは『量り屋』です」と言うのは、今回、取材に応じてくれた能登谷(のとや)彰常務取締役だ。このひと言に「ものを正確に量る仕事」という企業アイデンティティが現在も継承されていることが表れている。「量り屋」というルーツに対する敬意と矜持が、世界一といわれる品質につながっているようだ。