(※写真はイメージです/PIXTA)

困難を何度も乗り越えてきた「創業100年以上の企業」の数は、なんと日本が世界一。未曽有の経済危機に見舞われても揺らがない「本当に強い会社」には、どんな秘密があるのでしょうか? 本稿では、田宮寛之氏の著書『何があっても潰れない会社』(SBクリエイティブ)より、絶対的正確性と安全性のトップランナー、「株式会社タツノ」について見ていきましょう。

関東大震災で実証された「絶対的安全性」

さて、ガソリン計量機の製造販売を始めた龍野製作所にとって、最初の事件は1923年(大正12)の関東大震災だった。東京市内の約6割の家屋が罹災し、死者・行方不明者は推定10万人以上にもなる大惨事となったが、龍野製作所は図らずも名を挙げることになった。

 

これほどの甚大な被害を生んだ震災だったにもかかわらず、同社のガソリン計量機が設けられている給油施設は無傷だったことが「大震災及火災ニ當リ完全ニ貯蔵ノ目的ヲ達シタルコトヲ證明ス」(大震災および火災に当たり、完全に貯蔵の目的を達したことを証明する)として鉄道省に表彰されたのである。それ以来、ガソリン計量機の発注が爆発的に増えた。

 

現存する当時のチラシを見ると(以下、現代表記に変換)「火気に絶対安全なり」「ガスの発散絶無なり」「計量が迅速にして正確なり」「操縦平易機構堅牢にして外観優美なり」と、当時から精度と耐久性(安全性)を売りとしていたことが読み取れる。

 

次の転機は第二次世界大戦だ。敗戦直後、株式会社東京龍野製作所(1928年[昭和3]に社名変更)の社員は離散していたが、工場は焼けずに残っていた。そこへ進駐軍より米軍用の給油施設施工の要請が入り、戦後復興の中で一気に仕事が増えたという。

 

■施工事業・土壌環境保全では「環境負荷の低いガソリンスタンド」を実現

タツノのガソリン計量機の国内シェアは現在65%と本項の冒頭で述べたが、タツノ内での事業割合でいうと計量機を含めた製品では30%であり、50%以上を占めるのは、実は給油施設の施工だ。

 

自動車用のガソリンスタンドだけでなく、ヘリコプター用、飛行機用、鉄道用、船舶用の給油所、さらには物流会社や自動車工場、レジャー施設、ホテルなどの自家給油設備まで、ありとあらゆる給油施設の計画・設計から、着工、メンテナンスまで一手に引き受けている。

 

そして、この給油施設と関連しているのが、近年、力を入れている土壌環境保全だ。

 

ガソリンに含まれるベンゼンは、第一種特定有害物質として規定されている揮発性有機化合物の一種だ。ということは、ガソリンを地下貯蔵するに当たっては、タンクが劣化して燃料が漏れ、土壌を汚染するリスクが伴う。

 

ところがガソリンスタンドは現在、「土地の形質変更」について定めた第4条を除き、土壌汚染対策法の規制の範囲外にある。

 

そこでタツノは1979年(昭和54)に環境事業部の前身となる環境分析室を発足させ、業界トップクラスの分析能力を持つ自社ラボを神奈川県横浜市鶴見に設立。ガソリンスタンドに対する法規制が確立されていない中で、独自に燃料施設の土壌の調査・分析・診断・浄化修復のワンストップサービスを提供するようになった。

 

今では、土壌調査に定評のある「TATSUNO土壌環境パートナーズ」として、メーカーや不動産会社など、燃料施設以外の分野からも調査依頼を受けている。土壌環境関連の調査案件は年間700件、分析検体は5万件の実績を誇る。

 

一方、そもそも土壌汚染を極力起こさないようにするという取り組みもある。

 

かつては鉄製が基本素材だった地下タンクや配管に繊維強化プラスチック(FRP)を取り入れた。タンクはFRPと鋼板の3層構造とし、燃料漏れを察知する高性能センサーも取り付けてある。

 

FRPとは、軽量だが弾性のないプラスチックに、弾性の高いガラスなどの繊維を混ぜたもので、軽くて強く適度な柔軟性があると同時に、鉄と異なり錆びない特性を備えている。

 

製造業では「QCD(Quality=品質、Cost=費用、Delivery=納期)」を重視すべきとされているが、タツノは、ここにもう1つ「環境」を加える。たとえ大きな災害があっても燃料が漏れづらい、つまり土壌汚染を起こしにくいタンクによって「環境負荷の低いガソリンスタンド」を実現しているのだ。

 

■災害時に発揮される「メンテナンス事業の真価」

とはいえ、ひとたび災害が起これば、どんな不具合が起こるかわからない。ガソリンスタンドのメンテナンスもタツノの主要事業の1つだが、その真価がもっとも問われるのは災害時だ。

 

たとえば1995年(平成7)の阪神淡路大震災や2011(平成23)の東日本大震災の際には、現地拠点にいる社員や家族の安否確認と共にメンテナンス部隊が動き、ガソリンスタンドのチェック、保全に当たった。東日本大震災では全国から社員が被災地に入り、復旧作業をサポートしたという。

 

また、2019年に南房総に上陸し甚大な被害をもたらした台風では、多くのガソリンスタンドが長期にわたる停電や暴風による施設損壊で機能不全に陥っていたため、ガソリン計量機を動かすための発電機や、地下タンクから直接ガソリンを汲み上げるバッテリー式のガソリン計量機を急遽運び込み、罹災地域のエネルギーインフラの確保に尽力した。

 

人流と物流を支える燃料施設は、いうまでもなく現代社会の重要インフラの1つである。特に災害時には、各種インフラの復旧に加えて燃料施設の回復が、被災地の復興を左右する。そういう意味でも、タツノは、できるだけ早くガソリンスタンドを再開することを災害時の使命と位置づけているのだ。

 

こうした被災地支援や災害対策機器の開発を目的にした活動は、人命救助部隊を描いたイギリスのテレビ人形劇になぞらえて、社内では「サンダーバード・プロジェクト」と呼んでいるそうだ。いざというときの機動性もまた、顧客からの長年の信頼醸成に一役買い、現在の高シェアにつながっているのではないか、と能登谷常務は見ている。

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何があっても潰れない会社 100年続く企業の法則

何があっても潰れない会社 100年続く企業の法則

田宮 寛之

SBクリエイティブ

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