最終的には「すべて子どもに任せる」
モンテッソーリ教育では、最終的にはすべて「子どもに任せる」という到達点があります。しかし、最初から子どもがすべてできるわけではありません。そこに到るまでには最低限の援助が必要です。そしてこの援助にはタイミングがあります。
まずは子ども自身に「やってみる」という経験をさせましょう。チャレンジさせることなく大人が手をだしていたら、子どもはいつまでたっても達成感を味わうことはできません。達成感は、自立にむけた成長に欠かせない要素です。保護者はよくよく子どもを観察し、子どもへのサポートがいつ必要なのかを、見極めることが大切です。
「過保護」または「丸投げ」の危険性
「子どもができることに絶対手を出すな」―強い口調でこう述べたのは、オーストリアの精神科医であり、教育者でもあったルドルフ・ドライカースです。ドライカースは心理学者・アドラーの後継者といわれ、モンテッソーリ教育も学んでいました。
過保護、過干渉が強い状態で育つと、周りの大人にやってもらうのが当たり前となり、自分からは、靴さえ脱ぐことができない子どもになってしまいます。大人が先回りをして、子どものすべきことを代行してしまうことは過保護であり、過干渉です。
だからといって、すべてを子どもに丸投げしてしまうのも、避けたいことです。子どもの育ちの根底にあるのは、保護者からの愛情です。
保護者に関わってもらえない子どもは、無意識のうちに大人に対する愛情を欲し、様々な歪んだ形でそれを表現するようになります。
例えば乱暴になったり、弱いものいじめを始めたり、わざと危ないことをしたりするのは、愛情を求めた上での行動と考えられます。これらの行動は、保護者にきつく叱られるものばかりです。それがこの子たちの目的です。
どのような形であっても、たとえ叱られたとしても、保護者に自分を見てほしいという歪んだ愛情表現である場合があります。このような姿は、子ども自身に問題があるのではなく、大人の関わり方に問題があるのです。
子どもに介入するタイミング
子どもが集中して取り組んでいるときは、たとえそれが間違いや失敗につながりそうであっても関わる必要はありません。何も言わず、手も出さず見守ります。
また、子どもの手が止まったとしても、すぐに反応してはいけません。少し間を置きましょう。手が止まると、すぐに手伝う保護者がいますが、これはよくありません。子どもは、解決策を考えているのです。大人は目的がわかるので、つい手を出してしまいますが、それは試行錯誤の経験を奪っているということに気付かなくてはなりません。
では、子どもは、どんなときに本当に助けを必要としているのでしょうか。
①子どもがサポートを求めてきたとき
子どもからサポートを求められたら、最低限のお手伝いをします。「こうしてみたら」と、言葉だけのアドバイスですむ場合もあります。「やってみようか」と提示をした方がよいときもあります。
②子どもの表情がサポートを求めているとき
かんしゃくを起こす寸前や、泣く寸前など、子どもの表情がサポートを訴えているときには、「どうしたの?」と尋ねてみましょう。
③何度やってもうまくいかず、あきらめかけているとき
子どもにとって難しすぎるのかもしれません。できるように保護者がひと工夫したり、もう少し簡単なものを与えたりしましょう。
物事が、その場で完結しないこともあります。後に取っておけるものであれば、「またあとでやろうか?」と提案するのもよいでしょう。間を置けば、うまくいくこともあります。
保護者がしてはならないことは、答えを教えてしまうこと、そして代わりにやってしまうことです。
子どもの忍耐の限度について
先ほどの「②子どもの表情がサポートを求めているとき」について、具体的な例を見ていきましょう。
積み木を上にどんどん積んでいるミズキくん。高い塔をつくりたいようですが、なかなかうまくいきません。表情を見るとどうやらかんしゃくを起こす寸前。
かんしゃくを起こせば、塔をこわし、積み木を辺りに投げつけるかもしれません。「やりたい」と思ったこともできず、おまけに積み木を投げたことで叱られる。これではダブルパンチです。
かんしゃくを起こす前に、手を打たなければなりません。ここが介入のタイミングです。まずは、ミズキくんが何をしようとしているのかを聞いてみます。このとき、「高い塔を作りたいんでしょう?」と言ってはいけません。子どもに言ってもらうことが大切です。そして、「何か困っていることがあるの?」と尋ねます。
その答えが「うまく積めない」ということであれば、「下の方を持っているから、その上に積んでみたら?」と具体的なサポート方法を提案します。代わりにやってあげてはいけません。子どもとの共同作業にして、できたらその喜びを共有しましょう。
大人の役割は、子どもに任せられる部分と、まだできない部分を見極めることです。子どもは、何でも一人でやろうとします。手を貸そうとすると、「自分で!」と言って助けを拒みます。このとき、「じゃあ、一人でやりなさい!」とつい突き放し、丸投げしてしまうことがあります。しかし、子どもにはまだできないことが、たくさんあります。根気よく見守ってあげましょう。
忍耐の限度を迎える直前の最適なタイミングで、最低限の援助をすることで、子どもの「できた」につなげることができるのです。
松浦 公紀
松浦学園モンテッソーリ子どもの家 園長
日本モンテッソーリ教育綜合研究所 教師育成センター長