「集中」は成長にとって絶対に必要な要素
子どもの注意は普通、すぐに逸(そ)れてしまいます。絵本を読んでいたかと思うと、近付いてきたペットの犬と戯れ、お母さんがテレビをつけたらじっと見入る――。このように次から次へとすることが変わっていくのが、幼い子の特徴のように思われています。
しかし、マリア・モンテッソーリは、小さな子どもが、ある特定の事柄に対してすさまじい集中を示すことを発見しました。それが「集中現象」です。
集中現象とは、分散されていた注意がひとつにまとまり、一点に集中することです。集中現象がその時期の発達の段階、つまり敏感期にぴったり重なった場合、子どもは時間を忘れて取り組みます。何回もくり返し、最後までやろうとします。この集中現象こそが、マリアが「教育の鍵」として位置付けたもので、モンテッソーリ教育を一躍世界に知らしめた現象です。
集中現象は現在、心理学の分野において新たな視点が加えられています。そのひとつが、アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱された「フロー現象」です。集中現象を起こしている姿は「フロー状態」であり、その行為に完全に没頭し、最高の結果を出すとされています。
「興味に対する集中時間」は、大人の想像以上に長い
「机に向かう時間は、学年×10分」。今、小学校の先生の間でいわれている子どもが集中できる時間の目安です。つまり、1年生は10分、2年生が20分、3年生は30分ということです。かなり短いですよね。
しかし、これらの時間はあくまで、「一斉授業」をしたときのもの。この中には、授業にそもそも興味のない子も含まれています。子どもの「これをしたい!」という興味に対しての集中時間は、もっと長く続きます。
園児の例で見てみましょう。もちろん個人差はありますが、2歳の子でも40分、50分、同じ取り組みをしている姿をよく見かけます。
例えばシール貼りが大好きなユリちゃん。色とりどりのシールを台紙に貼っていくという単純作業なのですが、登園してから1時間半もの間、夢中で取り組んでいました。紙の端をはさみでパチンと切り落とせるようになると、「短冊切り」にはまる子が現れます。2歳のタツルくんは1時間以上はさみを使い続けていました。
子どもが集中するのは、このような単純作業だけではありません。ブロックや粘土で大きな作品を作る子もいますし、ずっと絵を描いている子もいます。公園で枝を集めて「鳥の巣を作る」という子もいます。このように遊びの工夫が集中現象として現れることもあります。
もっと大きくなると、掛け算や割り算がおもしろくなる子もいます。1×1から10×10までの100問を解き続ける。1日で終わらない場合は、何日もかけてやり通します。このように集中するものが複雑になってくると、何日間、何週間、時には何ヵ月もかけて、同じことをくり返す子が現れます。
集中が続かないのには「理由」がある
もし子どもの集中が5分も続かない場合、その理由を考えてみましょう。
まず考えられるのは、その子にとって簡単すぎる、もしくは難しすぎるということです。簡単すぎたらつまらないですし、難しすぎればやる気になりません。
また、環境が邪魔をしているということもあります。例えば、窓際にいると外の飛行機や鳥が気になり、集中が削がれてしまいます。モンテッソーリ教育の現場ではよく、壁に向かって机を配置しています。余計なものが目に入らないようにするためです。
集中している子を中断させる場合、どうしたら…
園での集団生活では、お昼の時間や、お迎えの時間などがあり、せっかく集中している子のお仕事を中断しなければならないことがあります。
モンテッソーリ教育においてしてはならないことは、子どもの活動を無理やりやめさせることです。大人の都合で終わりにしたり、中止にしたりすれば、子どもは強い反発を覚えます。やめるにしても子どもの納得が必要です。
まず、状況が許すのであればそのままにしておきます。このように好きなだけさせるという段階を設けると、そのうち子どもが気付くようになります。
「あれ? みんなご飯を食べている」「お迎えに来たママがずっと待っているみたい……」。そうなると、納得して片付けができるようになるのです。これが「社会性」です。
気付きがなかなか生まれないときには、声をかけることもあります。ほかの子が片付け始めたときに、「今、ほかのお友だちは何をしているかな?」「今、みんなお片付けしているね」といった声かけで、気付きを促します。
家庭でも、子どもが夢中になっていることを終わらせて、出かけなければならないことがありますよね。大切なのは、まず子どもの気持ちに寄り添うこと、そして子どもにきちんと状況を説明することです。
「まだブロックで遊びたいよね。お母さんもさせてあげたいよ。でも、今日はこれからおばあちゃんの家に行かなきゃならないから、お片付けしようね。明日、またできるからね」。
気持ちを汲んでから、状況を説明する。これをセットにすることを忘れないでください。
松浦 公紀
松浦学園モンテッソーリ子どもの家 園長
日本モンテッソーリ教育綜合研究所 教師育成センター長