そもそも、肝がんは「再発しやすい」が…
肝がんを手術で取り切れたとしても、8割の人が5年以内に再発しています。
肝がんの背景には、肝炎や肝硬変といった慢性肝疾患があります。肝がん患者のおよそ8割に肝硬変や慢性ウイルス性肝炎がみられ、また10%に慢性炎症が見られます。がんが一度は完全になくなっても、肝臓に肝炎や肝硬変がある限り残った肝臓から新たながんが発生してしまうことが起こり得ます。また慢性疾患の原因である生活習慣を改善しない限り肝炎や肝硬変からの悪循環を抜け出せないことも考えられます。
<肝がんの特徴>
●男性に多い
●日本人男性のがん死の第6位(2020年がんの部位別統計より/肝臓のがん全てを含む)
●日本人女性のがん死の第7位(同)
●B型、C型肝炎ウイルス保持者に多く発症する
●60~70歳代に多く、80歳代以降は減少
●定期検診で早期発見が可能
●肝炎ウイルス以外の原因(脂肪性肝炎など)が増えている
●再発を繰り返す
肝臓は再生力の強い臓器です。肝臓の再生能力はすばらしく手術などで切除されても2割程度残っていれば、元どおりの機能を発揮できるようになります。
しかし正常な肝臓ならいいのですが、肝がんの患者の肝臓は肝炎などによって全体が傷んでいることが多く、一部を切除するだけでも萎縮が進むことや肝不全に陥る可能性があります。手術ができたとしても、どれくらい健康な肝臓を残せて、どれくらい正確にがんを切り取れるか、手術成績は、その人の肝硬変の程度によって変わってくるといえます。
また肝がんでは、多くの患者が繰り返し治療を受けています。見方を変えれば、肝がんは再発しても治療法があるともいえます。これは、ほかの臓器のがんとは大きく異なる点です。
現在は再発を抑制する治療と、再発を早期発見する検査の充実が図られていますので、肝がん全体では、再発しても治療につながる患者は増えています。再発予防のためには、慢性肝炎や肝硬変の治療継続、定期的な経過観察が非常に大きな役割を果たします。
「脂肪肝を原因とする肝炎」は肝移植後の予後が悪い!?
ウイルス性肝炎が今日のように薬でコントロールできていなかった時代に肝炎から肝硬変になった人は、肝移植という治療法が取られていました。肝移植とは、悪くなった肝臓を他の人から提供してもらった肝臓で置き換える治療法です。
肝移植には「脳死提供者から臓器提供を受ける脳死肝移植」と「健常人の肝臓の一部の提供からの生体部分肝移植」がありますが、国内で行われている肝移植の多くが生体肝移植です。
近年はウイルス性肝炎のほかに、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対して行われる肝移植も増えています【図表】。どちらも進行すれば、非代償性肝硬変(黄疸、腹水、肝性脳症などが認められる肝硬変)から肝不全に至りますから、治療法の一つとして肝移植が用いられるのです。
NASHの患者では、NASH肝硬変の末期になると肝移植の適応となります。肝移植から5年後に3〜4割がNAFLDを再発するという報告があります。生存率は他の肝臓病と有意差はないとされ、『NAFLD NASH 診療ガイドライン2020』にも「NASH進展肝不全に肝移植は有用な治療」だと記載されています。
一方でNASH患者の肝移植はC型肝炎やアルコール性肝硬変患者のそれよりも予後が悪いとする報告もあります。
●NASH肝硬変のために肝移植した患者の33%にNASH再発が見られる。
●肝移植後にNAFLDになった例が25.4%に見られ、NASHになった例が15.7%に見られる。
肥満の解消は、どの段階でも非常に大切です。NAFLDやNASHの患者は、肥満をはじめ動脈硬化や糖尿病を合併していることが多いです。そのためお腹周りの脂肪が分厚く内視鏡手術をする場合にも手術がしにくい、また血管が傷んできているので合併症が増えるといったリスクも大きくなります。
なお肥満やアルコールによる脂肪肝の人は、肝移植ドナーとして肝臓を提供することができません。移植肝および残肝機能不全のリスクが高くなり、ドナーと移植を受ける患者の両方にとってリスクが高いからです。また肥満者である場合は、肝細胞に中性脂肪がたまり肥大化している場合がありドナーとして不適格である可能性が高いのです。
川本 徹
みなと芝クリニック 院長
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