〈がん治療〉惑わされてはいけない…「最先端の治療」と「標準治療」の決定的違い【医師が解説】

〈がん治療〉惑わされてはいけない…「最先端の治療」と「標準治療」の決定的違い【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

肝臓病は、原因はなんであれ肝炎→肝硬変→肝がんへと進行していくケースがあります。これは、日本人の3人に1人といわれる「脂肪肝」も例外ではありません。本稿では「肝がん」の治療法を中心に、最良のがん治療を受けるために知っておきたい知識を見ていきましょう。みなと芝クリニック院長・川本徹医師が解説します。

肝がんの治療法とは?

肝がん(肝細胞がん・肝内胆管がん)の治療は難しいとされていましたが、治療法は進歩し、より安全に治療を受けられるようになってきています。治療法には、切除手術、焼灼療法、肝動脈塞栓療法、分子標的薬、放射線療法、肝移植があります。肝細胞がんの場合、多くが慢性肝炎や肝硬変を背景として発生するため、肝障害度(肝臓に保たれた予備能力の評価)と腫瘍の状況(がんの数や大きさなど)や患者の年齢等を踏まえて治療法を選択します。

 

●切除手術

がんが肝臓の一部だけにできている場合に最も適した治療法になります。比較的大きながんでも、肝機能が良好であれば切除が可能になります。

 

●焼灼療法

腫瘍に特殊な針を刺し、ラジオ波やマイクロ波を流して、その熱でがんを焼いて壊死させます。他の手術に比べて体への負担が少ないことが特徴です。

 

●肝動脈塞栓療法

がんに栄養を供給している動脈から抗がん剤を注入し、さらにその動脈を塞ぐことで、がん細胞を壊死させる治療法です。

 

●分子標的薬

肝がんの薬物療法で主流の一つとなっている治療法です。

 

●放射線療法

肝がん対象では比較的新しい治療法といえます。重粒子線、陽子線といった粒子線治療や定位放射線治療が効果を上げています。体への負担が少なく、通院での治療が可能です。

 

●肝移植

悪くなった肝臓を、他の人から提供してもらった肝臓に置き換えます。「脳死肝移植」と「生体肝移植」の2つがあり日本では生体肝移植が主流です。肝硬変が進行している場合には肝移植が勧められることがあります。

 

どの治療法を選択しても、肝臓への負荷はかかることになります。負荷に耐えきれず肝機能の低下が進んでしまえば、肝不全を招くことになりかねません。肝硬変が著しいケースでは、少しの範囲の肝臓を切除しただけでも肝不全を起こすことがあります。このため治療選択前には必ず肝機能を調べ、治療の負荷をかけても耐えられる肝機能かどうか、あるいはどこまでの治療なら耐えられるかといったことを確認したうえで、その人に最適な治療法を選択することになります。

切除不能な肝がんにも「新しい選択肢」が登場

がん治療に関する近年のニュースとして、全身薬物療法(体の全体に薬を巡らせて作用させる)のうち分子標的薬(がんの増殖を引き起こす細胞内の特定の分子を狙い撃ちする薬を使ってがんを抑える治療法)や免疫チェックポイント阻害薬(免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬)といった新しい薬が注目されています。

 

特に肝がんに対する分子標的薬は、進歩が著しく日本ではソラフェニブ(2009年)、レゴラフェニブ(2017年)、レンバチニブ(2018年)、ラムシルマブ(2019年)が承認され、がんの進行程度や治療状況により使い分けられています。さらに京都大学の本庶佑氏が見いだした免疫チェックポイントを標的とした阻害薬ががんの治療に加わりました。

 

分子標的薬4種類に加えて、2020年9月には、切除不能な肝がんに対して免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブと、分子標的薬のベバシズマブを併用する治療が承認され、保険で受けられるようになりました。さらに中等度以上に進行した肝がんに対し肝動脈塞栓(TACE)(肝がんに血液を配給する肝動脈が見つかった場合に、配給する肝動脈に詰め物をして血流を止める方法)と免疫チェックポイント阻害薬(+分子標的薬)の組み合わせも期待されています。

 

ちなみに米国ではデュルバルマブという抗PD-L1抗体(肺がんに適応)と新しく開発されたトレメリムマブ(抗CTLA-4抗体)の併用療法が肝がんの治療に認可されましたが、日本ではこの療法はまだ承認されていません。

 

こうした併用療法を用いることで、相互補完的な効果が期待され生存期間の延長や肝臓への負担を軽減できる可能性が生まれてきます。また薬の選択肢が増えてきたことで、一つの薬で効果が見られなくなった場合にも、薬を変更して治療を続けられるようになっています。

 

■分子標的薬について

分子標的薬のどこがすごいのかというと、正常な体と病気の体の違い、あるいはがん細胞と正常細胞の違いをゲノムレベル(遺伝子のレベル)・分子レベル(細胞以下のレベル)で解明している点です。それにより、がんの増殖や転移に必要な分子を特異的に抑えます。

 

がん細胞だけを狙い撃ちするので、従来の抗がん剤と比べて効果が高く、かつ正常な細胞へのダメージが少ないので重い副作用が少ないのが特徴です。とはいえ薬ですからそれぞれに副作用はあります。またレゴラフェニブ、レンバチニブ、ラムシルマブについては、副作用が起きているほうが、がん細胞に対して高い効果が出ていると考えられています。

 

■免疫チェックポイント阻害薬について

免疫チェックポイント阻害薬は、京都大学の本庶佑氏が見いだし、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのジェームズ・アリソン氏とともにノーベル医学生理学賞を受賞したことで知られています。免疫チェックポイント阻害薬を分子標的薬に含めることもあります。

 

T細胞(リンパ球)の表面には、「異物を攻撃するな」という命令を受け取るためのアンテナがあります。一方でがん細胞にもアンテナがあり、T細胞のアンテナに結合して、「異物を攻撃するな」という命令を送ります。するとT細胞にブレーキがかかり、がん細胞は排除されなくなります。このようにT細胞にブレーキがかかる仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。

 

免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞のアンテナに作用して、免疫にブレーキがかかるのを防ぐことにより、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬です。免疫チェックポイントのどの部分に作用するかにより、抗CTLA-4抗体(T細胞の活性化)、抗PD-1/抗PD-L1抗体(T細胞の攻撃性回復、T細胞の活性化)があります。

 

肝がんの1次治療では、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を用います。自己免疫疾患(体内の細胞組織を攻撃してしまう免疫機能の異常。バセドウ病、橋本甲状腺炎、膠原病などがある)などのために、免疫チェックポイント阻害薬が使えない場合には、分子標的薬を用います。

がんにおける「標準治療」=「現時点で最良の治療」

最善・最良のがん治療を受けるために、知っておくべきことがあります。

 

がんは怖い病気だから、とにかく最新の高度な医療を受けたいと考える人は、少なくありません。高度な医療、最先端と聞くと、より良いもの、いちばん効果があるものと感じられるのも自然なことです。

 

しかし、それは正しくありません。医療において「最先端の治療」が最も優れているとは限らないのです。がんの治療では、「標準治療」という言葉を知っておくことが非常に重要です。がんの標準治療という言葉は、科学的根拠に基づいた「現時点で最良の治療」という意味で使われます。そのため医師は一般に「標準治療」とされている治療法を勧めます。

 

がんの標準治療とは基本的に、「3大治療」と呼ばれる手術、化学療法(抗がん剤治療の他に、分子標的薬などの新しい薬物治療も含まれる)、放射線治療を指し、健康新しい薬や治療法が標準治療として承認されるまでには、細胞レベルの実験から、動物実験、臨床試験(第1相試験から第3相試験まである)をクリアするという厳しい審査を受けなければなりません。

 

逆にいえば、がんの標準治療となっていないものは、厳しい試験をくぐり抜けることができなかった治療法か、あるいはまだ開発中の試験的な治療法で安全性や効果について確認できていない可能性があります。がんの治療法は、専門性の高い情報になります。患者やその家族は、もっと別な治療法があるのではないかと思うかもしれません。そんな弱みに付け込むように、世間には効果の示されていない高額な治療法や怪しい食品などが溢れているので注意が必要です。

 

治療法に迷い別の医師の意見を聞きたい場合には、セカンドオピニオンを受けるとよいです。地域の「がん診療連携拠点病院」に常設されている、がん相談支援センターで相談してみるのもよいでしょう。

 

 

川本 徹

みなと芝クリニック 院長

 

 

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※本連載は、川本徹氏の著書『死肪肝』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

死肪肝

死肪肝

川本 徹

幻冬舎メディアコンサルティング

沈黙の臓器、肝臓。 「気付いたときにはすでに手遅れ」を防ぐために――。 臨床と消化器がんを研究し、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでがん治療の最先端研究に携わった著者が、脂肪肝の基礎知識とともに肝…

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