(※写真はイメージです/PIXTA)

同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。睡眠習慣は、できる限り固定したほうがうまくいきます。睡眠研究の第一人者、スタンフォード大学医学部精神科教授・西野精治氏の最新刊『スタンフォードの眠れる教室』より、今回は「生活リズム」と「睡眠の質」について解説します。

睡眠の質が悪くなる「職業」があった!

ブレインスリープで調査したところ、不規則な生活で睡眠の質が悪い職業ナンバー1は建設業で、その次には職業運転手でした。若い起業家も睡眠時間が確保できていません。マスコミ、商社も不規則生活のリスクがある職業といえます。

 

職業運転手である長距離バス運転手やトラックドライバーの夜間走行による昼夜の逆転は、乗客を乗せた事故や他者を巻き込んだ大惨事にもつながります。

 

■「成功するには寝る間も惜しんで頑張るべき」という幻想

若手起業家も無理をして徹夜をする人が多い。若くて体力も熱意もあり、やることが猛烈にあるから無理をするのだと思いますが、長期的に見れば「寝ないで頑張る働き方」は非常に危険です。成功するまでの道も、成功してからの道も長いのですから、眠りを犠牲にしては身が持ちません。興味深いことに、年配の経営者には良い睡眠が取れている人たちが比較的多いのです。若い頃、睡眠時間を削って仕事をしていた人が成功して、安定した経営者になり睡眠も確保できたのか、若い頃から睡眠時間を確保していた人が成功するのか興味深い点です。

 

■昼夜逆転生活は睡眠の質が落ちて当然

人間の体温というのは、昼は高く夜は低くなるという、強固なリズムになっています。「日本人が、17時間の時差がある(実際は24時間を基点として、逆に7時間前進の時差修正が必要となる)サンフランシスコに行った際は、無理やりにでも現地の朝に起きて、現地の時間で食事をする。これが“自分のリズム”と“現地のリズム”を合わせる方法だ」――そんなことがいわれますが、いくら自分で調整しようとしても、1日に1時間程度しか合わせることはできません。また、前進させるのは後進させるよりはるかにつらく順応が難しいこともわかっています。昼夜が逆転する生活というのは、生き物としての強固なリズムに逆らって暮らすこと。睡眠の質が落ちるのは当然といえます。

 

■生活リズムを整えたくても整えられない、シフトワーカーの苦悩

車などの製造業で行われている2週間での昼夜2交代のシフトでは、せっかく2週間で苦労して夜型のリズムに調整しかけたところで、昼型のリズムに逆調整しなければならない生活が繰り返されます。

 

私は航空会社やメーカーからシフト勤務についてアドバイスを求められることがあります。産業医と相談したり、いろいろな会社を見たりしているのですが、時差がある場所で働く、日勤夜勤を交互に繰り返す、といった働き方は、非常に体への負担が大きいのです。かといって、医療関係者や昼夜稼働しているメーカー勤務の人に、「規則正しい生活を」と言うのも無理があります。

 

自分の中で体内時計が狂ってしまうことを「内的脱同調」といいますが、航空会社の乗務員やシフトワーカーは常にこの状況にさらされているわけです。元来、内的脱同調とは同一生体内において異なる概日リズムがそれぞれ異なる周期を自然に示すことをいいます。対語として外的脱同調という言葉もあり、時差ぼけやシフトワーカーの場合、この外的脱同調という言葉が一般的に用いられますが、時差ぼけやシフトワーカーの場合も、再同調の過程で内的脱同調が生じることもあります。ここでは混乱を避けるため、生体リズムの「脱同調」とします。

 

睡眠の専門家だけでなく生体リズムの専門家とも協力し、いずれはできるだけ体に負担の少ないシフトを推奨したいと考えています。例えば、体温のリズムや実際の生活のリズムとのずれを、数学的に計算して、その日1日の脱同調度合いを算出することは可能です。当然その月や年度の脱同調の総和も算出でき、年間・月間の脱同調量も算出可能で、これが最高であれば、最大の健康被害と効率低下で、MVPではなくMPP(most pitiful player:最もかわいそうな人)になってしまいます。考え得るさまざまなシフトでこの年間脱同調量をシミュレートし、実現可能で体への負担が最小のシフトを提案するのです。これは、私たち睡眠研究家や時間生物学の専門家と数学者が協力すれば、現在ではそれほど難しくないプロジェクトです。推奨されたシフトを実際に行ってみて、作業効率が上昇したか、健康被害が本当に減少したかも検証可能です。そういった努力なしに、既成のシフトを押しつけるのはあまりにも気の毒すぎます。

 

生活リズムを整えたくても整えられないジレンマを抱えているシフトワーカー以外の人、幸運にも昼夜が逆転しない仕事をしている人であれば、起床・就寝時間を固定することで、体内リズムの恩恵を最大化し、睡眠の質を上げていただきたいものです。

 

野生動物では、日照時間や、月の満ち欠けが、睡眠や体内リズム、また生殖に大きな影響を与えています。人間でも、緯度や高度、季節などがそういった基本的な生理に影響を与えていることは間違いありません。極端な例ではありますが、北欧で見られる季節性感情障害(冬季にうつ症状が出現する)は、極夜(1日中太陽が出ない)が続くことが原因と考えられています。

 

 

24時間社会になり、冷暖房などで昼夜のメリハリや四季の変化を感じることが少なくなりましたが、春眠暁を覚えずというのは、誰もが経験したことがある現象だと思います。季節の変わり目なので眠くなるといわれていますが、「秋眠」ではそういったことは経験しません。春は暖かくなり、自律神経も副交感神経が優位になるのではないでしょうか? しかも、三寒四温で春の息吹の期待も高まります。

 

 

西野 精治

医師、医学博士

スタンフォード大学医学部精神科教授

株式会社ブレインスリープ 創業者兼最高研究顧問

 

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スタンフォードの眠れる教室

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西野 精治

幻冬舎

寝られなくても大丈夫! 科学的エビデンスで長年の悩みを解決。睡眠の誤った常識を覆す、眠りの研究最前線とは? 30万部を突破した前著『スタンフォード式 最高の睡眠』から5年。睡眠研究の権威・西野精治氏による待望の…

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