「年金額」の算出システムを知る
日本の年金は、もともとは「物価や賃金が上がれば、それに応じて年金額も上がる」という、物価スライド、賃金スライドを採用していました。
けれど、年金行政の見込み違いや無駄遣いなどで年金財政が逼迫し、物価や賃金が上がったぶんだけ年金を増やしていくと、将来、年金原資が枯渇してしまうという恐れが出てきました。
そこで小泉純一郎内閣(当時)は、2004年の年金改革で、物価や賃金が上がっても、年金がそこまで上がらない仕組みを導入しました。これが、「マクロ経済スライド」です。
マクロ経済スライドの仕組みを説明するとかなり複雑なので、ここではイメージでお話しします。マクロ経済スライドが導入される前は、10万円だったものが次の年に11万円に値上がりするという物価上昇が起きたら、これに応じて10万円の年金が次の年には11万円に増えていました。これが、「物価スライド」です。
ところが、そうやって年金をどんどん支給していくと、将来、年金をもらう人たちの年金原資が枯渇してしまうという状況が出てきて、慌てた政府は、どうすれば支給額をカットできるのかと考えました。
そこで登場したのが、10万円のものが次の年には11万円になっても、年金の額を1万円増やすのではなく、調整して5000円だけ増やす(イメージ)という方法です。
つまり、物価や賃金の上昇ぶんよりも年金が上がる率のほうが低くなるので、実質的には年金をカットできるというのが「マクロ経済スライド」です。
■どんなに物価が上昇しても、賃金が下がれば年金も下がる
国は、この「マクロ経済スライド」で徐々に年金を実質的に目減りさせていって、年金財政を立て直すつもりでした。
ところが、予想外だったのは、デフレが長引いて物価が上がらなかったために、マクロ経済スライド自体が発動されないという状況が続いたことです。マクロ経済スライドは、2004年以来、3度しか発動されていません。消費税が引き上げられた2015年と物価が上昇した2019年、2020年です。
そのため、実質的な年金カットが進まず、2021年に、さらに新しいルールに沿って年金を支給し始めました。それは、賃金と物価の両方から年金の支給額を決めるのではなく、物価がどんなに上がっていても、賃金が下がっていたら、年金も賃金に合わせて支給額を下げるというものです。
そのため、2021年度の年金額は、物価が下がっていないのに、賃金が0.1%下がったので、賃金の値下がりに合わせて年金も0.1%下がりました。
■2022年の年金給付額はさらに下落?
困るのは、2022年の「年金給付額」です。
2021年から、原油高や世界的な気候変動などの影響で、原油価格や食料品の価格が高騰し始めました。しかも、日本は多くのモノを輸入しているので、円安傾向になったために、高い輸入価格がさらに高くなり、多くの人が物価高を実感せざるを得なくなりました。さらに2022年にはウクライナ危機で一段と高くなりそう。
以前は、物価が上がれば、物価の上昇ぶんほどではないにしても、年金も上がることになっていました。少なくとも、これだけ物価が上がっているのに、年金給付額が下がるということはなかったのです。
ところが、前述した新しく始まったルールに従うと、どんなに物価が上昇していても、賃金が下がれば年金給付額も下がることになります。実際、コロナ禍で財政状況が悪化する企業が増え、賃金が下がりました。
その影響で、2022年度の年金給付額は、なんと0.4%も下がりました。
こうして、年金は破綻しませんが、もらえる年金は、実質的には目減りしていくことが避けられなくなっています。
荻原 博子
経済ジャーナリスト
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