木工家具のクッション材、綿入れ半纏の綿が評判に
父は以前日本中を相手に商売をすることを目指して販路を拡大したり、世界を相手にしようと台湾・シンガポール・インドネシアなどへの海外進出を進めたりしていました。常に意識が外へ外へと向いていたのです。
しかし、これからは初心にかえって足元をしっかりと固めようと考えるようになりました。地域の役に立ち、信頼される仕事をしよう――。父がそんな考えに至った背景には、不渡りを出したときに温かい手を差し伸べてくれた地元の人たちの存在がありました。技術やアイデアを地場産業に提供することで、あのときの恩返しができるのではないかと考えたのです。
もともと九州は地場産業が発達しているエリアです。例えば木工の分野でいうと、筑後川流域は古くから木工家具の製造が盛んでした。その家具のクッション部分にはウレタンを使用していましたが、それを当社の固綿を使ってみてはどうかと試作して持って行ったところ、たいへん喜ばれました。
これを皮切りに、次に考えたのは綿入れ半纏でした。綿入れ半纏は久留米から筑後にかけての特産品の一つです。それまで、半纏の綿には布団綿をそのまま使っていました。
しかし私たちの会社には以前不織布を開発したときに考案した、熱加工による独特の綿がありました。この綿には従来の布団綿と比べて粘りがあるため破れにくく、一枚で作れて作業性も良いうえよく膨れるという性質がありました。
この綿を持って行って提案したところ、大変な評判となりほかの半纏綿メーカーもすぐにまねするようになったほどでした。
熊本と福岡の筑後地方の名産である「い草」にも目をつけました。当時、い草で夏用のクッションを作る際に、中に詰めているのはウレタンでした。
せっかく通気性に優れたい草を使っているのに、その中に詰めているウレタンには通気性や吸湿性がありません。夏の湿度が高くて気温も上がる時期には不向きな素材です。そのうえ冬には結露し、カビやダニが発生する原因にもなります。そこでウレタンの代わりに硬めの綿を提案したところこれも大当たりとなりました。
また、九州で生産の盛んな切り花の水分補給用に使われているのもウレタンでした。これを綿に代えて試作してみると、使い勝手の良いものができました。
このように地場産業用の製品を開発すると、どれも上々の評判を得ました。ただ試作の段階で先方に提案をしていたので、こちらのアイデアだけを取り入れて、他社の綿を使って製品化されるという悔しい経験もしました。ただこのときに新しいアイデアについて特許を取得しておく大切さを身に染みて感じたことは、のちにパシーマを開発する際に活かされることになります。
とはいえ新しい製品を開発するためには開発費もかかりますし、機械の変更や改造をする必要もありました。そのためには当然労力もかかるわけで、資金面では相変わらず苦しい状態が続きました。
龍宮株式会社 代表取締役社長
梯 恒三
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