ロシアによる経済制裁の影響で世界的な資源高に見舞われているなか、世界有数の「石油輸入国」だったアメリカは「石油輸出国」として存在感を発揮しています。なぜこのような劇的な変化を遂げることができたのか、みていきましょう。

飛躍の鍵は、シェールオイル

アメリカの指導者層も輸入依存の危険性を自覚しており、オイルショック以前からリスクコントロールに努めていました。1912年、ルーズベルト大統領により「National Petroleum and Oil Shale Reserves(NPOSR)」が設立。供給不足を見越して備蓄を開始しました。オイルショック後には、連邦政府主導のもと、石油メジャーがテキサス州を中心とする全米 3 州にまたがる鉱床でシェールオイル(後述します)の開発に早くも着手しました。

 

そして、このシェールオイルこそが、アメリカの石油生産量の大部分を占める重要資源です。シェールオイルは石油と天然ガスの両方を含む資源で、現在判明している範囲では、アメリカが最大の埋蔵量を保有しています。技術解説記事ではないので詳述は避けますが、シェールオイルは、中東やその他の地域の従来型の油田で行われる採油方法とは全く違う方法で回収されます。従来の方法よりも採掘コストが高いものの、自国内で生産可能なことから、大きな期待とともに開発が進められてきました。

 

実用化当初は石油価格が低水準だったため、採掘コストに見合わないとされてきたシェールオイルですが、中東情勢が悪化する9.11以降、石油価格の上昇とともに生産量も激増。世界のエネルギー事情を一変させ得るポテンシャルから、「シェール革命」「シェールブーム」などという言葉も生まれました。ただ、2020年頃には資源枯渇への懸念から、ブーム終焉かという声がささやかれるようになりました。コロナ禍による経済停滞で石油価格が低調だったことも、そうした声の後押しになっていました。

石油価格に応じて輸出入を調整できる強み

しかし、2021年になると経済が回復しはじめたことで石油価格が上昇。さらにOPEC加盟国が協調減産を発表したことで、ますます価格が上昇し、シェールオイル産業は再び盛り上がりを見せ、結果、アメリカははじめて純輸出国になりました。

 

出所:U.S. Energy Information Administrationのデータを元にオープンハウスが作成 ※単位:千バレル/日
[図表2]米国の原油および石油製品の純輸入量 出所:U.S. Energy Information Administrationのデータを元にオープンハウスが作成
※単位:千バレル/日

 

そして2022年、ウクライナ危機とロシアへの経済制裁が、そのトレンドを決定的にしました。EUを中心に世界のエネルギー資源流通を支えていたロシアが、流通網から排除されることで需給のバランスが崩れ、価格はかつてないほど高騰しています。結果、アメリカの輸出額は2021年以上に伸びると予想されています。

 

こうして振り返ると、シェールオイル産業は世界情勢に大きく振り回されているのですが、米国経済全体としてはそれで問題ありません。石油価格が下がれば他国から輸入して埋蔵量を温存し、価格が上昇すればゆっくりと放出すればいいのですから。この単純ながらも強力な戦略は、産油国だからこそのもの。そう考えると、北海油田を持つイギリスが、EU離脱後も、ロシア制裁に対して耐性があるのも頷けます。

ウクライナ情勢が落ち着いた後の未来は?

混乱が続くウクライナ情勢ですが、いつかは必ず沈静化します。戦争状態が続くと人々は疲弊し、平和を求める声が高まるはずです。そのとき、世界のエネルギー流通はどうなるでしょうか?

 

おそらく、ロシアへの経済制裁はプーチン政権が倒れた時をピークにして徐々に解除へと向かうでしょう。思えば、イラク戦争の際の経済制裁もフセイン政権打倒とともに終結しました。しかし、それによって直ちにイラクの原油生産量が戻ったかというと、決してそういうわけにもいきませんでした。激しい戦闘により破壊された採油施設や道路などのインフラは、再開までに多大な時間を要します。湾岸戦争を発端とする供給制約はその戦争が終わっても、当分解決しませんでした。

 

歴史は繰り返すと言います。ロシアのエネルギー資源が世界のエネルギー需要を満たすようになるまでには、まだまだ時間がかかるのではないでしょうか。その間、誰が供給を補うのか? 石油輸出国としてのアメリカの存在感が、ますます大きくなる気がしてなりません。

 

 

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