新薬の基礎研究から承認までは、10〜20年が必要
まずは、医薬品が開発されてから承認、販売されるまでの一般的な流れを確認しておこう。
最初に製薬会社などの研究機関が基礎研究で有望な化合物を探し出し、細胞や動物を用いて毒性や有効性を確認する非臨床試験を行う。続けて、臨床試験で実際に人に投与し、安全性や有効性などを確認。そのデータを製薬会社がまとめて承認申請を行い、その審査がなされ、厚生労働大臣が承認をするという流れだ。
一般的にその一連のプロセスには、10〜20年はかかるとされている。
実際には80%の新薬が1年以内に承認されている
その中で、今回のテーマである新医薬品の承認審査。その実務を担っているのが、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)である。
「当法人は、独立行政法人の中でも中期目標管理法人と呼ばれるものです。その性質上、承認申請については審査にかかる期間に目標を立て、それを達成できるよう業務を行っています」(PMDA経営企画部広報課)
現在、その目標は、新医薬品の通常品目の審査期間で、申請品目の80%を12ヵ月以内。新医薬品の中でも厚生労働大臣が指定した優先品目の80%を9ヵ月以内に承認するよう設定されている。そして同法人の令和2年事業年度業務実績報告書によれば、いずれにおいてもその目標が達成されている。つまり、日本においては、申請された新医薬品の80%以上は、ほぼ1年以内に承認されているのだ。
10年ほど前の2009年当時は、通常品目は申請品目の50%を19ヵ月。優先品目は50%を11ヵ月の承認が目標となっており、審査にかかる期間はこの10年の間で6ヵ月以上も短くなっていることがわかる。
欧米諸国に比較しても引けを取らない審査期間の短さ
次に外国との比較を見てみよう。
「医薬品が承認されるまでの流れは、先進諸国のどの規制当局も基本的には同じになっています」(PMDA経営企画部広報課)
先ほどと同じ令和2年事業年度業務実績報告書によれば、2020年、通常品目の審査期間の中央値は、PMDA(日本)が335日なのに対して、ヨーロッパで431日、米国で365日、カナダで344日、スイスで490日、オーストラリアで330日と、どの国の規制当局でも1年前後。
同様に、優先審査品目についても、PMDAが190日のところヨーロッパが248日、アメリカが226日、カナダが208日、スイスが280日、オーストラリアが203日と、どの国の規制当局でも200日前後となっている。
その中でも、通常品目の審査期間は、2018〜2020年では3年連続で日本が世界最速レベルであり、2020年については、優先審査品目においても世界最速だった。さらに、2011〜2020年の期間においても、PMDAは米国よりは若干遅いものの、ほぼ世界最速レベルの審査期間を維持しているのだ。
「PMDAが設立された2004年当時は、日本にはドラッグラグがあるとされていました。その後、審査体制の強化や相談業務の充実に取り組み続けた結果、2011年にはドラッグラグのうち審査期間の差は概ね解消され、今では欧米などの薬事先進国と比較してもトップ水準の審査期間の短さを維持しています」(PMDA経営企画部広報課)
新型コロナウイルス関連では、さらにスピーディーに
さらに、新型コロナウイルスワクチンで見てみると、ファイザー製のものが2020年12月18日に申請され、2021年2月14日に承認。アストラゼネカ製が2021年2月5日申請で、同年の5月21日承認。武田薬品工業(モデルナ)製が2021年3月5日申請で、同年の5月21日承認。直近の2021年12月16日に申請された武田薬品工業(ノババックス製)のワクチンが、2022年4月19日に承認されるなど、いずれも2〜4ヵ月前後で承認されており、平時の優先品目よりもさらに短い期間で審査を終え、承認されていることがわかる。
「新型コロナウイルスに関係する医薬品などについては、厚生労働省から最優先で審査などの手続きを進めるようにとの通知が出ていて、私たちもさらに短い期間での承認をめざし、最優先で審査を進めて対応しています」(PMDA経営企画部広報課)
つまり、ここまでのデータでわかるように、少なくとも日本での新薬の審査と承認に限っては、遅いということが20年前にはあったかもしれないが、最近の10年については遅いどころか、先進諸国と比較しても同等か、むしろ速いくらいだと言えるだろう。
一方で、特にがん領域などでは、海外で数年前に承認され使用されている医薬品が、日本では承認や適応が認められていないケースが増えているという指摘も一部でされている。これらは、規制当局である厚生労働省や審査、承認のプロセスだけの問題というよりも、より大きな視点で考える必要があるのではないだろうか。
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