9年ぶりの政権交代
■5月21日に豪州で、上院(76議席)の約半分(40議席)の改選と合わせて、下院の総選挙(151議席)が実施されました。その結果、アンソニー・アルバニージー氏が率いる中道左派の野党・労働党が、スコット・モリソン首相が率いる中道右派の与党・保守連合に勝利しました。その結果、2013年以来約9年ぶりの政権交代となりました。
■アルバニージー氏は、23日に第31代豪州首相に就任しました。開票はまだ続いており、24日の開票率72.9%の時点で、下院の獲得議席は労働党が74議席で、保守連合が55議席となっています。単独過半数(76議席)となるかは今後の開票を待つ必要があります。複数の豪メディアによると、単独過半数の可能性はあるものの、環境を重視する議員や諸派と連立政権を樹立するのでは、といった見方もあるようです。
■23日の豪州の金融市場は総じて落ち着いた動きとなりました。選挙結果が事前の世論調査の内容に沿うものであったことも一因と考えられます。
環境、インフレ対策に注目
<外交政策>
■新政権の政策を簡単に整理したいと思います。まず、中国を中心とする外交政策です。中国政府は豪州からの輸入に対する規制強化を緩めておらず、豪州内の世論にも押されて、労働党は対中強硬姿勢を継続するものとみられます。一方、最近では4月19日にソロモン諸島が中国と安全保障協定を締結し、中国船舶の寄港を認めたこともあり、豪州の外交・安全保障政策の強化は継続される見込みです。
<環境対策>
■また、今回の総選挙では、気候変動対策についても注目が集まりました。24日の段階では緑の党が2議席増加する見通しです。労働党が単独政権となるのか、連立政権となるのかは不透明ですが、豪州として環境重視の政策運営が行われる可能性は高いと考えられます。
<インフレ対策>
■世界的な商品価格の上昇から、消費者物価指数(CPI)が大きく上昇しています。コロナ禍からやっと解放され、景気に明るさが見え始めた矢先で家計を取り巻く環境はインフレによって厳しさが増しています。
■2022年1-3月のCPIは前年同期比+5.1%と2001年4-6月以来20年9ヵ月ぶりの高水準です。対して賃金上昇率は、民間部門が同+2.4%、公共部門が同+2.2%にとどまっています。さらに家計の財務状況を確認すると、急激に悪化しています。
■労働党は選挙期間中に介護保険制度の改善、薬価の引き下げ等の家計支援、インフレ対策を示しました。特に最低賃金の引き上げは、国民の期待度も高く注目が集まりそうです。
豪ドルの変動性は高まろう
■予想を上回るインフレ率の急速な上昇が続く中、豪州準備銀行(RBA)は5月の理事会で11年半ぶりの利上げに踏み切りました。RBAは今後も中立的な金利水準に向けて継続的な利上げを実施する見通しです。4月の失業率が3.9%と歴史的な低水準にあり、さらに改善が見込まれることに加え、インフレ率も高い水準での推移が予想されるためです。
■こうした中、今回の総選挙で労働党が勝利したことで公約である最低賃金の引き上げが注目されます。アルバニージー新首相が選挙戦で公約したように物価上昇に見合った最低賃金の引き上げが仮に実現すれば、賃金と物価のスパイラルにつながるリスクがあります。中期的に物価が上昇する可能性が高まれば、RBAの金融政策は一段とタカ派化し、豪ドル相場が強含むと考えられます。
■また、環境政策が大きく転換するかもしれません。新政権が再生可能エネルギーへの取り組みなどを一段と推進するためです。その一方で、ロシアへの経済制裁の持続を背景に、化石燃料への需要は強く、それを取り込むチャンスでもあるため、新政権のエネルギー対策の舵取りにも注目が集まりそうです。豪ドルは、金融政策や資源価格の影響を受けやすい通貨ですが、今回の総選挙を経て、豪ドルの変動性は高まる見通しです。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『9年ぶりの政権交代となった豪州総選挙…「豪ドル」の今後は?【専門家が解説】』を参照)。