老後の暮らしは「収入と支出とのバランス」
■実際、リタイア後の生活費は、毎月どれくらい必要…?
――人のことは言えませんが、この調査の貯蓄額を見ると、お金の面で大変な人はかなり多そうですね。とはいっても、それなりに暮らせるのでは? 年を取ったら、若いときほどお金は使わないでしょうし。
長尾FP なるほど。では、夫婦2人の老後の生活で、ひと月にお金がどれくらい必要になると思いますか?
――そうですね。それほど使わないだろうと言ってはみたものの、自分の近い将来のことだと想像してみると、やっぱり、それなりの暮らしは維持したいですよね。ぶっちゃけ、いまはひと月30数万円で暮らしています。できれば、同じくらいの生活レベルをキープしたいなあ。
長尾FP なるほど、そうですか。先ほどの生命保険文化センターの意識調査によると、夫婦2人がゆとりある老後生活をおくるのに必要な金額は月額36万1000円です。「ゆとり」と考えるのは旅行やレジャー、趣味、教養にかかる費用、それに日常生活費の充実となっています。あなたが希望する生活レベルは、このデータにけっこう近いということです。
――わたしはごく普通の人生をおくってきて、これからもごく普通の感覚で暮らしていきそうですね。あ〜、よかった!
長尾FP そうなればいいんですけどねえ。この意識調査には、もうひとつの数字も出ています。夫婦2人で老後生活をおくるうえで必要と考える「最低日常生活費」です。これは月額22万1000円になっています。
この程度の収入があれば、余裕はないにせよ、何とかぎりぎりの生活ができるのではないか、というイメージです。
――うーん。でも、ぎりぎりの生活というのは……。せっかく頑張って何10年も働いてきたのだから、老後はそれなりに楽しんで暮らしていきたいなあ、と思うのですが、わたしは甘いのでしょうか。
■退職までに2000万円の貯蓄が必要って、やっぱり本当なんですか?
月額36万円や22万円というのは、「これくらいあれば」という意識調査の数字ですよね。老後の生活で、実際に毎月いくらの金額を使っている、というデータもあるんでしょうか。
長尾FP 厚生労働省の家計調査報告に、はっきりした数字が出ています。2020年のデータを見ると、「高齢者夫婦無職者世帯」の収入は月額25万6660円、支出が25万5500円で、毎月1160円の黒字になっています。「無職者世帯」のデータなので、収入とは年金のことだと考えてください。
――へえ、黒字なんですか。さっきの意識調査にあった「ゆとりある老後生活」はできないけれど、「最低日常生活費」よりは数万円のプラスですよね。とりあえず、ほっとしました。年金だけでも、何とか暮らしていけるんですね。
長尾FP 2020年に限っては黒字だった、ということです。この年は新型コロナウイルスが流行した影響で、支出が例年よりもかなり低く抑えられる一方、1人10万円の給付金などもありましたから、じつはあまり参考にはなりません。
その1年前、2019年の同じ家計調査を見ると、だいたい毎月3万円ほどの赤字になっているんですよ。この年のデータがだいたい実情に合っているのではないか、と思います。年金だけでは暮らしていけない、というわけですね。
――毎月3万円の赤字なら、1年で36万円も不足する……。
長尾FP 10年間で360万円が必要になります。老後の生活が30年あるとすれば、トータルで1080万円足りないというわけです。じつは、この厚労省の家計調査は毎年、データがかなり異なっています。
2017年の調査では、毎月5万5000円の赤字という結果が出ました。計算すると、1年で66万円の赤字で、30年間では約2000万円足りないということになります。この「2000万円」という金額に聞き覚えがありませんか?
――あ! 年金だけでは暮らせないから、2000万円の貯蓄が必要だって、大きな話題になりましたね。
長尾FP そう、いわゆる「老後2000万円問題」です。2017年のデータで見ると、確かに、こうした数字が導き出されます。とはいえ、2020年には逆に黒字になっていますよね。要するに、老後の暮らしがどうなるのかは、収入と支出とのバランスに尽きます。各家庭や個人の事情、そのときの社会の状況によって変わってくるんです。
長尾 義弘
フィナンシャルプランナー
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